コロナ禍で高まる家族時間・自分時間の充実ニーズ ハウス食品、バッファローと考えるイマドキ家族への寄り添い方

機能の先にある情緒的な価値を伝える

第3部は、ハウス食品の清水愼太郎氏(事業戦略本部・食品事業二部長)とバッファローの小幡真也氏(事業本部・デザイン室長)を招き、高野氏とともに議論を行った。

ハウス食品は「完熟トマトのハヤシライスソース」や「フルーチェ」、九州地方を中心に販売されている「うまかっちゃん」などの商品で、消費者の声を起点にプロモーションやコミュニケーションを進めている。

清水氏は「自社のレシピサイトでも提案はしていますが、消費者が実際に“おいしそう”と感じるものは少ないのかもしれない。提案するものの中から反応の良いものを深掘りする必要があると感じています」と話した。高野氏も「共働きママはすぐに答えにたどりつきたいので、メーカーが提案するレシピでも“鉄板”“これが正解”といったコピーがあると刺さりやすい」と解説した。

名古屋の大須に本社を置く、無線LANなどパソコン関連の周辺機器を販売するバッファローは2020年、在宅勤務による自宅通信環境の整備へのニーズの高まりもあり売上を伸ばした。2020年のWi-Fiの規格変更を機に商品デザインなどを変えたことが追い風になっただけでなく、ウェブサイトやSNSを活用した情報発信も功を奏したという。

議論は大きく二つの質問について行われた。まずはコロナ禍を経験し、ターゲットとする家族像は変わってきた実感があるか、というもの。「シチューオンライス」で新たな食シーンを提案し、ヒット商品を生み出したハウス食品では、リモートワークが増えて昼ご飯をどうするかという問題が新たに生まれたと指摘。

高野氏も、家事のシェアが進む中でも調理に関しては男性の進出が遅れているため、リモートワークが続くと男性でも調理しやすい商材へのニーズが、より高まるのではないかと話した。

清水氏は、コロナ禍以前から多忙な現代人向けに好評の「ごちレピライス」を紹介。パッケージも従来商品とコンセプトを変えるチャレンジを行い、購入前から情緒面にアピールするデザインを採用している。

清水氏は「使用食材も少なく、調理の手間も少ない。出来上がりの満足感が、買い物・調理の手間を上回ったことがポイント」と話した。高野氏はイマドキファミリーのポイントにもある「楽は標準仕様」に触れながら、気分が上がるパッケージや簡単調理、ワンディッシュで洗い物を少なくするといった単に時短になるということ以上の価値により「売れているのも納得」と話した。

小幡氏は、写真や動画の保存・整理ができる「おもいでばこ」を紹介。2011年から販売している商品だが、コロナ禍による在宅時間の延伸を追い風に販売を伸ばしたという。高野氏は「おもいでばこ」について「従来のバッファロー製品とは異なるネーミングも、機能と情緒的価値をつなぐことに成功したのではないか」と分析した。

次に、コロナ禍を経て起きた家族のあり方の変化を、コミュニケーションへいかに反映させているかという質問を提起。小幡氏は、2020年2月~11月までの公式サイト閲覧数が緊急事態宣言による外出自粛と連動して2月から増加し、5月をピークに落ち着いているというデータを紹介。

バッファローではこの間、電話サポートへの問い合わせが増えたことや、その内容の分析を踏まえて、地元である中部地方でテレワーク需要に対応したテレビCMを放送。CMでは、これまで家庭の中でも男性が担うことが多かった機器の設定を、女性を含め幅広い層が行うようになったという背景から「あんしん、あんぜん、日本メーカー」を訴求。強みであるサポート体制をアピールした。

清水氏は「コロナで多くの人が困っている時期にブランドを推し、セールスをすることについて議論があった」と苦労があったことを話した。そこで、消費者の悩みに寄り添う形で「こまったらハヤシ!」というメッセージを打ち出し、カレーやシチューよりも材料も少なく、調理も簡単で子どもにも好まれていることを伝えた事例を紹介。

またメッセージをテレビCMからSNS、店頭まで一貫して伝えることで「完熟トマトのハヤシライスソース」が家族の悩みを解決できる存在であることをアピールしたと話した。清水氏は「メニューの提案もそうだが、何かの気づきがあれば行動につながる。気づきのきっかけにするためにはインパクトがあり、それをブランドに関連づけられるかが重要」と話した。

高野氏は2社の話を受け「新たな需要が生まれたことを感じる。時間がないママたちは常に課題を感じているが、日本の企業だと問い合わせをしやすいことや、ハヤシライスは調理時間が短いといったことなど、言われないと気づかないこともあるのだと思う」と述べた。

最後に「ハウス食品さん、バッファローさんは商材が違っても今のファミリーに寄り添ったコミュニケーションをされていることを実感しました。単に時短です、と機能的な価値を伝えるだけではなく、“おもいでばこ”のように家族の思い出を共有する、家族で調理を一緒に楽しむといった機能の先にある価値が必要になると感じた」と話し、第3部をまとめた。

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