新型コロナ関連表示で激化!広告表現の法執行とは

新型コロナウイルスの流行で健康を意識することの多かったこの1年。ウイルス除去に役立つ商品や健康食品などへの需要がかつてないほどに高まりを見せている中で、新たな商品も数多く誕生しています。
 

しかし、商品を売り出すには注意が必要なこの分野。広告表現に対する規制は、景品表示法をはじめ、従来から厳しく管理されていましたが、2020年にはついに薬機法が改正され、いよいよ広告表現に関する「課徴金制度」が導入されました。

 
宣伝会議では、この新たな動きに対応するための知識を学ぶオンデマンド講座「健康食品・機能性表示食品のための改正薬機法・景表法を踏まえた広告表現対策講座」を配信。本稿では、講師を務める弁護士の染谷隆明氏(元消費者庁表示対策課課長補佐)が機能性表示食品や健康食品を取り巻く広告規制実務の基礎と最前線を解説します。

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活発化する消費者庁の景品表示法の執行トレンドと理解の重要性

(1)コロナ関連表示への積極的な法執行

消費者庁は2020年3月から、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする健康食品、マイナスイオン発生器、空間除菌商品などに関し、迅速に対応するため、景品表示法及び健康増進法の観点から、下記の改善要請を行うとともに注意喚起を行いました。

1 消費者庁「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起」(第1報(2020年3月10日)、第2報(同年3月27日)、第3報(同年6月5日))
 
2 消費者庁「新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品について(注意喚起)」(2020年5月1日)

また、消費者庁は、景品表示法に基づき、携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社と抗体検査キット販売事業者6社に対する行政指導*1を行いました。また、「アルコール71%配合」と表示していたものの実際にはアルコールの配合割合が71%を大幅に下回るアルコールジェルを販売していた事業者1社、携帯型の空間除菌用品の販売事業者1社、次亜塩素酸水の販売事業者6社およびアルコールスプレーの販売事業者1社に対して、措置命令*2を行いました。

このように消費者庁は、国民の関心が高まっているコロナ関連表示について厳格に対応していることから、ウイルス除去・除菌などを謳う商品を販売するには景品表示法のチェックを丹念に行う必要があるといえます。

*1:消費者庁「携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について」(2020年5月15日)及び「新型コロナウイルスの抗体検査キットの販売事業者6社に対する行政指導について 」(2020年12月25日)
*2:2020年5月19日付株式会社メイフラワーに対する景品表示法に基づく措置命令(消表対第800号)、2020年8月28日付株式会社東亜産業に対する景品表示法に基づく措置命令(消表対第1179号)及び2020年12月11日次亜塩素酸水の販売事業者6名及びアルコールスプレーの販売事業者1社に対する景品表示法に基づく措置命令について

(2)激化する消費者庁の法執行

消費者庁は、2009年に設置されてから2019年に至るまで、約5400件の景品表示法の調査を行ってきました(図1)。そのうち、重い処分である措置命令にまで至ったのは348件です。このデータを見ると、消費者庁は景品表示法違反の調査をして約6.43%の割合で措置命令をしてきたということなので、約18回の調査に1回しか措置命令をせず、たいしたことがないと思うかもしれません。

【図1】データからみる執行状況とトレンド
出所/筆者作成(本講座資料より抜粋)

しかし、これは消費者庁の設置後10年間の平均でしかありません。すなわち、図1の「各年の処理件数における措置命令の占める割合」の直近3年間の消費者庁の運用を見ると、いずれも10%を超えています。このように最近では、消費者庁は、調査10回に1回は措置命令を行っており、執行が活発化していることが分かります。

加えて、消費者庁の措置命令は、2017年は50件、2018年は46件、2019年は40件と堅調に推移しています。都道府県知事も措置命令権限を有していますが、2019年度については15件の措置命令を行っており、都道府県知事も景品表示法の執行主体として看過することができない存在となっています。

また、景品表示法上、ウイルス除去・除菌効果や健康保持増進効果を謳う広告の場合には、その効果を裏付ける合理的根拠資料が必要となります。消費者庁から、合理的根拠資料が求められた場合に資料を提出できないと、その効果の表示は不当表示であると判断されてしまいます(景品表示法第7条2項及び第8条3項)。

このように、“実証されていない広告をしてはならない”という規制を「不実証広告規制」というのですが、実は消費者庁は、この不実証広告規制を積極的に活用しています。例えば、過去4年間の措置命令163件を見ると、そのうち86件が不実証広告規制による事案です。つまり、処分された事例の半数以上に不実証広告規制が活用されていることが分かります(図2)。

こういった執行状況からしても、ウイルス除去・除菌効果や健康保持増進効果を謳う場合にはきちんと消費者庁に説明できるエビデンスづくりが必要となってきます。
 

【図2】データから見る景品表示法の執行状況(不実証広告規制)
出所/筆者作成(本講座資料より抜粋)

(3)機能性表示食品事後チェック指針など

機能性表示食品については、消費者庁は2020年3月に「機能性表示食品事後チェック指針」を公表しました。事後チェック指針は、機能性表示を行ううえで科学的根拠として明らかに不適切であると判断される事例などや広告その他の表示を規制する各法令上問題となるおそれのある事例などを示すことにより、機能性表示食品に対する食品表示法、景品表示法および健康増進法にかかわる事後的規制の透明性を確保するために定められたものです。

具体的な内容としては、エビデンスパート(明らかに科学的根拠を欠く事例)、表示パート(不当表示に該当する事例)、そして、届出資料不備などの取り扱いパートに分けられており、機能性表示食品を取り扱うのであれば、その理解が必須の書面です。

消費者庁は、この機能性表示食品事後チェック指針に基づき早くも事件調査を行っているところです。

その他にも景品表示法のトピックとしては、打消し表示やアフィリエイト広告の適正化が急務となっております。

本講座では、機能性表示食品事後チェック指針の解説はもちろんのこと、機能性表示食品やヘルスケア関連商品にまつわる、エビデンスのつくり方、打消し表示やアフィリエイト広告の実務解説をさせていただきました。

最後に

ヘルスケア関連商品に関し、一般消費者から信用・信頼を勝ち取り、企業の中長期的な成長につなげるためには、商品の品質はもちろんのこと、広告規制を遵守することが肝要です。

本稿をお読みいただき、または、本講座をご視聴いただいた方は、ヘルスケア関連商品分野の広告規制が幅広くかつ奥深いという実感を持たれると思いますが、この幅広さや奥深さこそが広告規制を学ぶ面白さでもありますので、一緒に学ぶことができれば嬉しいです。

「健康食品・機能性表示食品」の広告表現に関連する法規制を押さえたうえで、方向性を誤らないためのブリーフやクリエイティブづくりのポイントを学ぶ「改正薬機法・景表法を踏まえた広告表現対策講座」。オンデマンドで配信中。

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染谷 隆明
池田・染谷法律事務所
代表弁護士

2010年弁護士登録。2014年~2016年消費者庁表示対策課に勤務し、景品表示法に課徴金制度を導入する改正法の立案を行う。2018年10月に景表法・薬機法等の広告規制を中心に取り扱う池田・染谷法律事務所を設立。消費者庁当局の経験を活かした、広告規制を遵守しつつ利益を最大化する広告戦略や、ユーザの囲い込みを有効に行うポイント・キャンペーン戦略などマーケティング助言の他、消費者庁調査対応などの危機管理を最も得意とする。大手食品メーカーや健康食品・サプリメントなどを販売する通信販売会社などの案件を数多く手掛け、食品分野の広告規制に豊富な経験を有する。

 

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