はじめから80点の完成度を求めるのはNG!日本人が海外パートナーとうまく仕事を進める方法

日本的すぎる仕事の進め方は、「めんどくさい奴」だと思われる。

読者のみなさま、こんにちは。シドニーを拠点とするクロスカルチャー・マーケティング・エージェンシーdoqの代表を務める作野です。

前回のコラムでは、海外市場では日本市場よりも多種多様の消費者セグメントが存在し、異なるバックグラウンドを持つ人で構成されるグローバル市場特有の「エリアマーケティング」や特定の移民に特化した「エスニックメディア」の有効性を紹介しました。

グローバル市場で「マーケティングの手法」が異なるように、海外ではマーケティングを実行に移すための「パートナーとの仕事の進め方」も異なります。今回のコラムでは、日本人マーケターが海外パートナーと働く時の重要な点について、お話ししていきたいと思います。

たとえば読者の皆さんのなかには、海外パートナーとの仕事のなかで、はじめはうまくコミュニケーションが取れていたのに、段々とむこうからの返信が遅くなっていった、時には全く連絡がとれなくなってしまった、といった経験をしたことはありませんか。

私も日本をベースにして海外市場とやりとりをしていた若いときにそんな経験をしました。

当時を振り返ると、私の仕事の進め方はいくつかの点で日本的すぎる部分があり、そのためパートナーから見たら一言でいうと、「めんどくさい奴」と思われてしまっていたのだと気づきました。

では、当時の私は何を間違えていていたのでしょうか。

はじめから細部を詰めようとする日本。ビッグアイデアを重視する海外。

God is in the details — 神は細部に宿る —。

ドイツの建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの言葉ですが、この言葉を聞く時、私は細部まで目が行き届いた日本のプロダクトの品質の高さや、日本人の気配りの細かさを思い浮かべます。

日本製品への信頼性の高さや、日本人の礼儀正しさへの認識は、ここオーストラリアでも、アメリカでも共通のものですが、こと仕事の進め方に関していうと、この細部へのこだわりが往々にして裏目にでることがあります。

それは「はじめから」細部にもこだわるという点です。

欧米豪で仕事をしてきた経験でいうと、プロジェクトの初動段階では、細部の整合性よりも「ビックアイデア」、つまりマーケティングの課題を解決するためのコンセプトやキャンペーンの核となるアイデアは何なのか、ということがより明確かつ強く求められます。

エレベーターピッチ(エレベーターに乗っている30秒程度の短い時間でビジネスなどについてプレゼンする)という手法がありますが、実際にシカゴで働いている時代には、同じ社内の別部署の人間や上司に対して、実際に取り組んでいるプロジェクトに関するエレベーターピッチを繰り返ししてきました。

プロフェッショナルの集団として、もちろん確実に実現できないアイデアを提案しないという前提の上で、まず「ビックアイデア」は何なのか、そこを明確にした上で社内、社外のチームメンバーの意識を揃え、細部はその後に詰めていく。

まずはアイデアの可能性を広げ関わっているチーム老若男女、社内社外問わずアイデア出しに注力し、その後に細かい形を整えていく、数字で表すと30⇒50⇒80⇒100といった流れでプロジェクトを完成させていくのがグローバルチームと仕事を進めていく上では一般的です。

それに対して日本の進め方は、はじめから80ぐらいの完成度を求めているように感じます。これは日本人が持つきめ細かさから来ているものかとも感じますが、どちらが優れているというものではなく、このプロジェクトの初動段階に求める20と80の期待値のギャップを認識しておくが大事だと感じます。

海外パートナーからの提案書で、アイデアに優れていて、見栄えも良く、ワクワクするけれど、詳細なスケジュールやメディアの細かい仕様などの記載が乏しいといったことはよくあります。

当社では日本の地方自治体の現地観光イベントを手掛けてさせていただくことも多いのですが、特に会場や照明、レンタル機材等、手配するものが多岐にわたり、かつ当日の失敗が聞かないイベント業務において、私もオーストラリアに来た当初は、常にイベントマニュアルが上がってくるたびに全ページをくまなくチェックし、漏れがないように不明点をパートナー会社にメールで送り確認していましたが、何回メールのやり取りをしても全ての質問に回答を得られることはなく、段々と連絡がとれなくなっていく、ということを経験しました。

当時の私は、日本のクライアントへの要望にも応えるべく、はじめから80の完成度を求めており、パートナーにとっては「なぜ今の段階でこんなことを気にするの?」という疑問が生まれ、このギャップを埋めるための質問を繰り返していくうちに、お互いに疲弊していってしまうという状況が起こってしまっていたのです。

日本でも海外でも、最終的にはアイデアに優れ、細部も整合性が取れているプロジェクトを目指していくというゴールは変わりません。

何度かこうした経験を積み重ねていくうちに、このような状況になった際は、まずは今の段階で必ず知りたい優先順位の高い3つの質問に絞って確認をする、15分だけ時間をもらって電話で短時間で確認する等、ギャップを理解した上で、パートナー側の負担の少ない方法をとっていくことで、円滑な進め方ができるようになりました。

doqが企画運営する地方自治体の豪州でのイベント。特に政府機関のイベントを実施する際には、クライアントの期待値とローカルパートナー会社の進行方法の足並みを揃えることに注力する。

このような形で安心感と安定感を持って海外でイベント実施するためにローカルパートナー企業との信頼関係と彼らが考える進行方法への理解を怠ることはできない。

このような形で安心感と安定感を持って海外でイベント実施するためにローカルパートナー企業との信頼関係と彼らが考える進行方法への理解を怠ることはできない。

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作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)
作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

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