他局さんには絶対勝てない。だから死ぬほど企画書く
嶋野:じゃあ第4回は、前半パートとしまして、伊藤さんのバックグラウンドとか、企画づくり、番組づくりのノウハウっていうのを学びたいと思います。ではまずは最初に、テレビ東京らしい番組の作り方について聞いてみました。
伊藤:その中に一つこう、事実としてあるのは、他局さんには絶対勝てない。だから死ぬほど企画書く。やっぱり、とてもじゃないけど番組でメインにしないでしょっていうことがメインになってる局ですよね。そもそも多分旅番組とかも、走りはそうじゃないですか。旅だけでゴールデン1時間つくっちゃうって。
旅グルメの局っていうと多分テレビ東京なんですけど、金がないから旅グルメなんですよね。バカにされた言葉ですから、旅グルメって。ラーメンランキングって言って2時間作っちゃうみたいな。で、グルメ東京って悪口言われたらしいですから。ただなんか、そういう局なんじゃないか。特化するっていう。
嶋野:私的にすごく興味あったのは、他局という言葉が割とよく出てきて。つまり徹底的に周りというか、ライバルを見たうえで自分のポジションを結構決めている感じがしていて。その辺どう思いますか。
尾上:(ほかの)テレビ局のライバルが何やってるかが、ラテ欄に全部可視化されてるという。そう考えたことはなかったんですけど、それは全部企画集であって、そこにないやつ考えたら新しい番組になるっていうのはすごく明確なディレクションだなっていうふうに思いました。
だからなんか自分がやってる商売とかが、もしくはやろうとすることが、どういうマッピングの中にあるのかとかを書き出してみたりとかすると、もしかしたら何か発見があるのかなとか思いますね。
嶋野:ほかがやってないことをやる、という。
嶋野:ライバルが明確だとそういうやり方はすごく有効なのかもしれないですね。あとは、フォーカスがわりと、小さいところを一個見つけて、そこからガガガっと2時間スペシャルやるみたいな、そういうのもちょっとなんか今っぽいというか。
尾上:そうですね。だって、伸ばすことで見えてくる面白さですよね。予算が潤沢だったり、時間が潤沢だと工夫が減っていくみたいなことを言うじゃないですか。だからそこで、あえてどんどん工夫が生まれてきていますし、なんかその工夫の感じっていうのが、今のスマホ一台でみんなが何かやるような時代とすごいマッチしているんじゃないかな、という。
嶋野:たしかに。そういう意味でも時代とちょっと合ってる感じがすごくする。
自分をいかにフラットに保つか
嶋野:いまのが放送局としての、自分が所属する組織としての番組づくりだと思うんですけど。その次に、その中で伊藤さんらしい番組づくり、つまり個性の部分についても聞いてみました。
伊藤:もう、すごく人の話を聞くようになった。上の人も下の人も分け隔てなく聞くようにしたり、褒めに行ったりしている。(それは)自分の反対意見を生かさない手はないと思うんですけど。あんまり馬が合わないスタッフを必ず入れたりする。自分の目線がこう(狭く)ならないように。「伊藤さん、これおもしろくないです」って言ってほしいので。
嶋野:はい。いまのところも、私はすごく面白いなと思ったのが、さっきの話っていうのは、競合とかライバルとかって……ある意味、自分と他人って、一人称と二人称の話をしていた気がしたんですけど。
いまの(お話)って、たとえばある意味自分に対して意見が合わないスタッフとかって、ある意味第三者とか、自分と他人の一人称、二人称の周りを埋めるみたいなことを、チーム作りとか企画の中に入れている気がしていて。そういうバランス感覚によって、いい企画ができているのではないか、というふうに思ったりもしました。
尾上:伊藤さんはもう、そもそもあまりテレビにも興味はないとおっしゃっていましたけど。そんな中で自分をいかにフラットに保つかを意識しているという話でしたよね。そのフラットにするためにいろんな意見を取り入れるっていうふうに言っていて。
その努力って結構すごいなと思ったんですよね。ふつう偏っていくとか、煮詰めていこうとするところを、あえてどんどんふつうにしていくというか。主観とか客観っていうものを、もっと混在させて、世間と近くなってくっていうことなんですかね。
嶋野:世間、世間、なるほど。何なんですかね。その、いままでの方とか、これから聞こうと思う方、自分が好きなものにフォーカスしてどんどん進んでいくタイプに対しての、わりと真逆のポジションっていう。
尾上:そうですね。
結構学生さんから「偏愛できるものがなくて困っている」という話が出ますけど、別になくてもこうやり方もあるよっていう、すごいいい例を示してくれた。
嶋野:確かに。
尾上:だから何か商売する時も、自分これ一番って言えないかもなぁみたいなやつとかでも、それでもなんかいろんな視点取り入れて、実は偏愛の人の真逆の、めちゃくちゃフラットっていう武器を持ってパン屋さんを始めたらどうなるのかとか、そういうこともあるのかもしれないですよね。
嶋野:確かに。