どんな人にも通じる何かを紐解く
嶋野:続いてはですね、伊藤さんがどうやってそういうふうな考えに至ったか、つまり周りの意見とか社会的な流れを踏まえて、企画を出すことを意識できるようになったか、というところで、過去の話も聞いてきました。
伊藤:自分にしか経験してないことの中から書いてみようと思ったんですよ。きっと自分の感覚で記憶にある何か。
で、自分の高校時代の記憶で企画を書いたのが初めて通ったんですね。『三匹の子ぶた』というタイトルで。で、高校の野球部だったんですけど、買い食いをするんです。ラグビー部に、同じ形した筋肉系じゃなくて、丸い、太ってるのがいたんですよ。で、あるときに、不思議なものを食べていた。調理をする粉末スープと乾燥麺、スープを調理するやつ。それを買って、粉末をかけてバリバリ食ってる光景だったんですよ。
で、お前何食ってんのっていう。だってこれ調理するやつじゃんってとかって言ったら、バカだなお前、これが一番うまいんだよって言って。しかも安い、量も多い、食ってみろお前って。粉末スープのじゃりじゃり感と、うまいに決まってるんですよ、あの味の濃いやつ。
で、めちゃめちゃうまかった。で、それを「デブっていうのはうまいもの知ってるんだな」って。「デブはうまいものを知っている」っていうコンセプトで、それが後に『(元祖!)でぶや』という番組の種になっていくんですけど。
初めて通った企画がそれだったんですね。なんだ、いいじゃん、自分の中の記憶で。まあ天才とは言えないかもしれないけど、自分の感性で面白いと思ったものを切り取ったら、何か人に見てもらえる面白がり方になるんじゃないかと。20代の感性、むしろ10代の感性でもいいんじゃんっていうふうに、自分の中ではその時に解釈できたんですよね。
嶋野:やっぱり我々どうしてもみんなにとか、みんなが好きなものを考えるんだけど、結局他人が好きなものはやっぱり最後わからなくて。自分が好きかどうかっていうのだけは唯一信じられるというか。で、そこから企画をスタートした。しかもそれが当たったっていうのがすごく面白いなと思いました。
尾上:企画をするときに一番大事なのは、まず自分の中にあるものを探るみたいなことを言いますよね。「たとえば女性向けの企画を男性が考えるときにどうするんですか」と聞かれたんですけど。
それはそれでやっぱり長いこと生きていると、自分の中にいろんな自分がいる感じってあるじゃないですか。そこに聞いてみるっていう技術があるということを、これまた別のコピーライターの方が本で書いていて。その感じはすごいためになるというか、使える方法なんじゃないかなと思ったんですよね。
それ以外にも、記憶の中の断片の、「あの瞬間のあいつ、こうだったな」とか、「あの子、こうだったな」とか、「あの大人の人、こうだったな」とか。そこから逆算していくやり方もあるのかなとも思ったり。
嶋野:そうですね。同じ話かもしれないですけど、コピーライターの山本高史さんとか、化粧品の広告で、初めは俺にはわからないっておっしゃったけど、最後にそれは、でも「年を取るということ」というテーマに置き換えたら、化粧品は俺にも書けるはずだって、すごくいいコピーを書いた。どこかにやっぱり、どんな人にも通じる何かがあって。そこを紐解けば、つくれるんじゃないかなっていうのは。
尾上:まあそうですよね。だからまあ、なんですかね、10代が10代向けに作ると意外に面白くないとか。70代が70代向けだと意外に面白くないっていうのは、そのまんますぎるからっていうのは結構ありますよね。
嶋野:なるほどね。そして次は。
日常的なものを、非常に局地的な表現で
伊藤:ここに着目せよということにフォーカスするってことは、やっぱり定めてないとブレちゃうよね。そういうことを想像しながらタイトルをつけたり、企画をしたりしている。
僕がメモってる言葉も、ふだん使いしない言葉を言ったときとか組み合わせとかを探してますかね。
『池(の水ぜんぶ抜く大作戦)』の例でいうと、池って特別じゃないじゃないですか。あれを抜くとこだけがマニアックなんですよ。抜いたことがないから、ほとんどの国民が。なので、日常的にある太いものに、表現が非常に局地的であるっていうことを何となく思っています。
嶋野:どう思いました?
尾上:大事ですよね。どこかお店入ろうとか、なんか買おうとか思うときって、結構そこですもんね。だから僕らもキャッチ書いたりする時とか、ちょっと耳に残るようなもの、目残りがいいとか、なんかいろいろ引っかかりを作るとか、よく言いますよね。広告コピーとか、ノリが良すぎるとスーッといっちゃうって。だから番組名とかやっぱり、『池の水ぜんぶ抜く』って、聞いたことない言葉ですよね。
むしろめちゃくちゃわからない2文字だけとかの時代がいつか来るかもしれないというか。もう『ウゴウゴルーガ』(フジテレビ系)とかですよね、古くは。
嶋野:では、第4回これからの知られ方で、テレビ東京伊藤さんの話の前半は以上となっております。ざっと振り返りますと、テレビ東京的な番組づくりというところで、すごく他局さんを意識して、他局がやっていないことをやるっていうところからスタートしつつ、伊藤さん独自のやり方としましては、第三者の視点というか、大きい社会の流れを取り入れて、よりフラットな形で番組を作っていくという話もありました。
その企画の土台として大事にしているのは、少なくとも自分一人は大好きな点というか、興味あったものを広げていくっていうところがすごく印象的だったかなと思っております。
尾上:はい。
嶋野:で、次回はですね、よりこのテレビ東京的思考法って、いま仮に名前を付けさせて頂いた時の、どんなふうにそれをマーケティング的にというか、商品づくり、ブランドづくりに使えそうかっというのをですね、ちょっと具体的な事例とかも上げながら一緒に考える回にしたいなと思っております。
尾上:はい。
嶋野:はい、では今日の『これからの知られ方』は以上なんですが。ちなみに尾上さんは初めに好きな数字7って言ってましたが、なぜ7が好きなんですか?
尾上:7は、昔住んでたマンションが7階だったっていう理由ですね。
嶋野:おっ。すごい面白い理由ですね。
尾上:しかも707号室だったんですね。
嶋野:おっ。からの?
尾上:からのは別にないですね。そのぐらいです。あとはまあラッキーセブンって言うじゃないですか、だからベタですよ。むしろ嶋野さんは何が好きなんですか、数字。
嶋野:え、ない。
尾上:え? ない?
嶋野:好きな数字とかなんであるの? 逆に。
尾上:いや、ふつうに。うそ。こんなことあります? なんかあるでしょ、だって、ありますよね? ありますよそんな。いやあ。
嶋野:ハハハ。
尾上:じゃあ混乱したところで。次回もっとさっぱりした終わり方になるといいですね。
嶋野:そうですね。はい。
尾上:はい。それでは、ありがとうございました。
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