シングルメッセージで勝負!日本人が英語で広告クリエイティブ開発を進めるコツ

「螺旋型思考」と「直線型思考」、言語の違いで生まれる思考のクセ

文部科学省の『世界の母語人口』によると、母語人口が最も多いのは中国語で、英語は2位となります(このデータでは、日本語は9位)。

「INTERNET WORLD USERS BY LANGUAGE Top 10 Languages」で、インターネット上で使われている言語の割合を見ると、やはり英語ユーザーが約11.8億人、中国語ユーザーが約8.8億人と二大巨頭です。それに比べ日本語ユーザーはたったの約1.18億人程度でロシア語と同レベルの8〜9位の立ち位置のようです。この数字を見るだけでも日本語のみに限ったインターネットでのコミュニケーションは英語の約10分の1程度のユーザーにしかアプローチできず、インターネットの世界で日本語言語のみに絞ることでコンテンツ制作に対する投資効果が低く、機会損失を生み出すことであるか、ご想像いただけるかと思います。

とはいえ、言葉は、使う人々の思考のクセや、文化的な側面を色濃く反映します。

例えば、日本人はやるべきことを一から片付けて積み重ねていくのが得意です。物事を説明する際にも、一見本筋とは関係ない例(エピソード)から始まり、紆余曲折を経て論点が核心へと向かっていきます。【約束時間に全員集まる→予約時間にレストランへ向かう→みんなで食事をする】というように、順を追って物事を進めていくことを好みます。アメリカの著名な言語学者 Robert B. Kaplan氏は「Cultural Thought Patterns in Inter-Cultural Education」(1966年)の中で、このような思考プロセスを「螺旋型思考」と呼んでいます。

一方で、英語が使われる欧米圏やオーストラリアの人々は、その場の自身の意思や、周りの状況、みんながどんな気持ちなのか、を明確にしておきたい思考が前提にあると言われています。賛成か反対か、必要か不要か、が最初にくるのです。これを「直線型思考」と呼びます。

先ほどの例でいくと「みんなで食事をする」ことが自分の意思として重要であり、そのために必要な予約時間にレストランに向かうことや、約束時間に全員集まるといった行動の優先度は後にくるわけです。時の流れとともに周りの状況が変われば、どんどん意思を柔軟に変えていきます。

皆さんはなんとなく欧米圏の人々に対して時に「時間にルーズだ」とか「コロコロ意見を変えるお調子者」といった印象を抱くことがあるかもしれません。日本人は「予定通りに物事が進まないなんてありえない」となるのですが、欧米圏の人々からすると「柔軟に物事の変化に対応できないなんてありえない」となるわけです。

多様なバックグラウンドを持つチーム間のコミュニケーションは、言葉以外の様々なシグナルを発信したり、受信することができる環境を用いることが重要である。

職場において、同じ母国語同士のメンバーであれば、言語というツールのみでお互いの考えを理解しやすいことも多々ありますが、当社のように、様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まる組織の場合、母国語が英語と日本語では思考プロセスとコミュニケーションの手法が異なるため、それらが起因して社内のミスコミュニケーションも起こりやすくなります。

COVID-19の影響で、オーストラリアでもリモートワークの状況は続いていますが、なるべくFace to Faceのコミュニケーションを持てる機会を増やせるように、COVID-19対策を周知させた上でオフィスは常に開け、週に1度はカンパニー・デーと称してオフィスでの偶発的なコミュニケーションを促したり、毎日朝と夕方にマネージャーとの10分間のビデオミーティングを徹底する等、社内のコミュニケーション促進対策を重視しています。

3年ほど前に、ニューサウスウェールズ大学でデザイン思考のワークショップに参加したときのことです。参加者同士でチームを組んで、色画用紙や段ボール紙、紐などを使って、プロトタイプの製品を短時間で作り出すという内容でした。「現代の人々が住みたいと思う理想の街をつくる」というお題に対して、日本人である私は、どんな街をつくるべきか、どんな機能を持たせるべきか、ホワイトボードでアイデアを書き出すアクションから取り始めるわけですが、オーストラリアのローカルの生徒はある程度、議論を終えた上で「とりあえずつくり始めよう」と言って、ハサミや糊を使ってどんどん手を動かしていくのです。

そして「ここに〇〇があったらいいね」といった具合に、都度、意見を変えながら作り上げていきました。「時間が短いのにみんなバラバラにやり出して、これでは収集つかなくなるぞ」と最初は少し戸惑うわけですが、手を動かしつけることで徐々にチーム全体の意思が統一されコミュニケーションも円滑になっていく過程がとても新鮮でした。

とりあえずつくり始め、ハサミや糊を使ってどんどん手を動かすオーストラリアローカルの生徒。都度、意見を変えながらしっかりと形のあるアウトプットを生み出す。

ワークショップの講師の「Less talking, More Doing」という言葉が印象的でした。デザイン思考等のワークショップを多様なバックグラウンドの人々と受けることで、螺旋型思考に慣れ親しんでいる日本人が直線型思考を持つ他のクラスメートから新たな観点や学びを得ることは非常に有意義だと思います。

第3回目のコラムでは、日本人が海外パートナーとうまく仕事を進める方法について書きましたが、はじめから細部を詰めようとする日本人が、ビッグアイデアを重視する海外のパートナーと衝突しがちなのも、こういった思考の違いや、物事に対する捉え方が違うことを理解していれば回避できます。

思考回路の違いは日本語と英語の文法の違いにもよく表れています。日本語は、導入部で説明や理由から入り、結論は最後に述べるというパターンですが、英語は、自分の主張(結論)を冒頭で述べ、「なぜなら」の理由は後回しです。私は言語学を専攻していた訳ではないので言語研究をされている方のようにうまく説明することは出来ないかもしれませんが、海外で15年以上コミュニケーションビジネスに携わった経験から言えることとして、言葉の成り立ちや、それらの言葉を使う人々の思考習慣について理解しておくと、業務全般、特にクリエイティブ開発のフェーズにおいて非常に役立つと考えます。

 

次ページ 「Amazon、LEGOの事例にみる、ストレートな表現を好む英語圏のクリエイティブ」へ続く
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作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)
作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

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