シングルメッセージで勝負!日本人が英語で広告クリエイティブ開発を進めるコツ

Amazon、LEGOの事例にみる、ストレートな表現を好む英語圏のクリエイティブ

私が住んでいるオーストラリアでは、主要言語が英語です。
コピーライティングや広告ビジュアルのデザインなど、アウトプットの領域では、英語という言葉の特徴が色濃く現れます。

例えば、Amazonの屋外広告。皆さんもご存知、アメリカのインターネット通販大手のAmazonですが、実はオーストラリアでは今までずっとサービス提供をしておらず、進出を果たしたのは2017年12月の出来事でした(アメリカや日本ではかなり定着しているので、オーストラリアほどの先進国でAmazonがないことには驚きでした)。

オーストラリアでは、eBayやGumtree、Catch.com.auといったインターネット通販の競合他社がすでに市場を席巻しており、Amazonにとっては彼らからシェアを奪うために、真向から敵陣に乗り込むような形でした。そのため、認知や利用者を増やしていくための広告を定期的に展開しているわけですが、その発信内容は『Free delivery on millions of items(何百万もの商品を無料でお届け)』というメッセージのみという非常にシンプルなものです。

彼らは伝えたい情報を「商品数がとてもたくさんあること(=millions of items)」と「送料が無料であること(free delivery)」の2点に絞り、それ以外の情報を一切排除するという大胆な決断をしました。

ブロック玩具で有名なLEGOの広告も見てみましょう。これはシドニー市内を走る電車の駅構内で見かけたものですが『Rebuild the world(世界を再構築しよう)』というコピーに、レゴで作られたアートワークのみというシンプルなクリエイティブです。LEGOは、プラスチック製のブロックを組み合わせて、遊び手が自由に表現(構築)ができる玩具です。創造力やアイデアは、既存の世界を変えうる力を持っていることや、そういった潜在的な能力を秘めた子供たちの未来を、玩具を通して養っているブランドであることを表現しています。

AmazonとLEGO、どちらの広告にも共通して言えることは、パッと見て訴求内容が短時間でシンプルに理解できるということです。

訴求したいポイントを明確に1つ~2つに絞り、それらのポイントをしっかりと訴求できるアイデアを創出し、それ以外の要素は可能な限り排除し、シングルメッセージで簡潔かつ分かりやすく述べられているコピーライティングの考え方は、英語が結論を最初に述べる直線型思考が起因しているのではと考えます。

シカゴのレオバーネット本社で仕事をした際にも、クリエイティブブリーフには常に「The Single-Minded Proposition(SMP)」、つまりそのブランドや製品の最も重要な点は何なのか?を述べなければいけませんでした。クリエィティブ開発とは、プランナーやアカウント(プランナーがいない場合)が中心になり絞り込んだS M Pに対して、それを訴求するユニークなアイデアをクリエイティブチームがリードして皆で出し合い、コピーライターやアートディレクターが表現に落とし込むプロセスの繰り返しでした。

一方で、日本語が螺旋型思考がベースとした場合、結論までの道筋を大事にする傾向があります。

例えば、コピーライティングではひとつの言葉に二重の意味をかけるような隠喩が多用され、その奥に隠されたメッセージに企業の哲学や商品コンセプトを込めるといった手法も多いのではないでしょうか。

消費者側も、発信者の意図を汲み取ったり、言語化されていない“空気を読む”といった回り道を好む傾向があるように思います。そのため、道筋を説明するための情報を更に付け加えていく手法が取り入れられます。これらは、日本人の螺旋型思考が、自然とクリエイティブに反映されていることが背景にあるのではと考えます。

ちなみに、先ほどご紹介したLEGOの事例は、二重の意味をかける隠喩の手法が使われています。コピーが、Build(構築)ではなくRebuild(再構築)が使われているのは、近年の#MeToo運動やLGBTなど社会的マイノリティの活動を通して、小魚たち(弱者)がサメ(既得権益を有している強者)に対して声を上げ、従来の社会構造を見直す(再構築する)ことが裏メッセージとして込められているのです(オーストラリアは、同性婚を合法化したり、多様性を積極的に認める国家であることが背景としてあります)。

そういう意味では、ストレート(直線的)な表現でありながらも、深読みすると別の意味も込められた日本語的な螺旋型思考で構築されたクリエイティブとも分析することができます。

 

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作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)
作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

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