シングルメッセージで勝負!日本人が英語で広告クリエイティブ開発を進めるコツ

Yakult Australiaの「Do you Yakult?」キャンペーン

日本語と英語の成り立ちの違いは、クリエイティブのアウトプットに如実に現れることはお分かりになったかと思います。日本語(日本人)の思考回路をベースにクリエイティブを開発し、それを現地言語に単純翻訳するといったプロセスでは、現地の消費者の人々にきちんとメッセージが伝わらない可能性が出てきます。英語圏では、日本語とは対照的に、ストレート(直線的)な表現を好むため注意が必要です。

最後に、これまでご説明した内容を踏まえて、当社の事例を一つご紹介します。

2019年から、Yakult Australiaと共にオーストラリア市場におけるヤクルト製品のマーケティング戦略をお手伝いさせていただいています。五輪メダリストとして知られるイアン・ソープ氏を起用して、従来のコミュニケーションを刷新したい、というのが最初の出発点でした。

ヤクルトは皆さんもご存知の日本生まれの乳酸菌飲料です。オーストラリアでは、ヤクルトが進出した1994年当時、プロバイオティクス(人体に有益な効果を与える生きた微生物)を摂取して人の健康に役立てるという発想が普及していませんでしたが、近年になり消化器への好影響や、病気を未然に防ぐ免疫機能をもたらすものであることが、人々の間で認知されはじめて、スーパーマーケットに行くと、ヤクルトに似た小さなボトルの類似商品が数多く登場するようになりました。

オーストラリアにおける市場調査の結果を見ると、ヤクルトの製品名を認知している人はほぼ100%に近いスコアでした。海外という異国の地で、これだけ多くの人々にプロダクトの名前が浸透していることは驚異的な数字です。

2020年にNetflixで公開され、話題を呼んだ『The Half Of It』(邦題は『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』)という映画があるのですが、アメリカの田舎町が舞台であるにもかかわらず、作中でヤクルトが映り込むというレベルではなくきちんと登場(しかも物語展開の鍵となるシーンで登場)していて、本当にグローバルで浸透しているブランドなのだと、日本人として誇らしく思いました。

調査では、認知率が非常に高い一方で、ヤクルトを含めた乳酸菌飲料を飲んだことがない人がまだまだ多いことも明らかになりました。皆さんの中でご存知無い方もいらっしゃるかもしれませんが、飲料など外部から取り込んだ乳酸菌は、腸内に定着せず、やがて排出されてしまうため、継続的な摂取が必要です。つまり、乳酸菌を摂ることで腸を守り、病気を予防するというヤクルトの使命を達成するためには、定期購入して飲用を継続してもらわなくてはなりません。

そこで私たちは、オーストラリア市場で定着している「Yakult」という固有名詞を「ヤクルトを(定期的に)飲む」という動詞に変換しようと至りました。

それで生まれたのが『Do you Yakult?』というコピーです。

イアン・ソープ氏はオーストラリアでは2000年シドニーオリンピックで地元でも大活躍した伝説的な英雄ですから、アイキャッチになるように彼の肖像を全面に使って、製品と一緒に「君はヤクルトを飲んでいるか?」と投げかけるのみというシンプルな構成です。

実際には、ヤクルトの製品についてオーストラリアの市場の消費者に伝えたいことは山ほどありましたが、直線型思考でクリエイティブを構築し、ストレートに消費者に質問を投げかけるのみという表現になりました。

直線型思考の人間が多い英語圏市場では、広告を見たときに消費者の中で「YesかNoか」「GoodかBadか」「LikeかDislikeか」といった二者択一の反応ができる読後感が好ましいと考えています。それは、直線型思考が、自分の主張(結論)をはっきりさせたい意向があるためです。

先ほどのAmazonの『Free delivery on millions of items(何百万もの商品を無料でお届け)』や、LEGOの『Rebuild the world(世界を再構築しよう)』は、「うん、それはイイね!」という商品やサービスに対して「Good」や「Like」(人によっては反対の回答が出る場合もあるかもしれませんが)というシンプルな自身の意思感情が湧くかと思います。

『Do you Yakult?(君はヤクルトを飲んでいるか?)』を見たときには「Yes」か「No」かのどちらかの答えが返ってくるはずです。

膨大な情報量で溢れている昨今、消費者は自分に関係ないと判断される情報は無視して、脳の処理がパンクしないように自然と制御をかけています。企業側からのメッセージが届きにくくなっている状況下では、相手に届けられるメッセージは1つか2つが限界でしょう。直線型思考によるクリエイティブ開発は、現代の情報過多の時代にもマッチしているのかもしれません。最近、日本市場で見かける広告も、シンプルでストレートな欧米的な表現が増えてきた印象を持ちます。

今回ご説明した海外におけるクリエイティブ開発の内容は、日本市場で働く皆さんが海外市場に挑戦する時に参考にしていただける内容を心掛けて書いてみました。特に戦術を実行する「エクスキューション」フェーズ等で参考にしていただければ幸いです。

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作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)
作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

作野 善教(doq®グループマネージングディレクター)

2001年ビーコン・コミュニケーションズ入社、日本市場でのマーケティング全般における経験を経て、2006年より米国広告代理店レオバーネットのシカゴ本社にて米国ブランドのアジアパシフィック及び欧州・南米市場向けマーケティング立案を担当。2009年に世界と日本をマーケティングとイノベーションで繋ぐことをビジョンにシドニーでdoq®を創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームと共に、20年50社以上に渡るグローバル市場でのマーケティングを手がけ様々な賞を受賞。オーストラリアの移民起業家を称えるエスニックビジネスアワードにおいて史上2人目の日本人ファイナリストにも選出される。2008年シカゴ大学ニューアントレプレナーズプログラム修了。2011年ニューサウスウェールズ大学AGSMにてMBAを取得。2014年クロスカルチャーマーケティングエキスパートとしてTEDxTitechに登壇。2018年ハイパーアイランド・シンガポール校にてデジタルメディアマネジメント修士号を取得。

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