2021年に80周年を迎える静岡新聞社と2022年に70周年を迎える静岡放送が企業変革への覚悟を示したこの広告には、大きな反響があった。そこでアドタイ編集部は、本広告に込めた想いを社長の大石剛氏に聞いた。
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シリコンバレーに計80人を派遣
——正月広告「『静岡新聞SBSはマスコミをやめる。』『決めた。』宣言」が話題になりましたが、実際にどのような反響がありましたか。
まず、この広告を掲載している当社のWebサイト「企業変革への取り組み」は1万4000ものPVがありました。また、公式Twitter(@InnoShizuoka)のツイートには14万7000インプレッションがありました。多くのメディアでも取り上げていただき、大きな反響がありました。
Webサイトに直接励ましのメッセージをくださる方も多く、好意的なご意見にも、批判的なご意見にも一つひとつすべてお返事をさせていただいています。特に、同志でもある地域メディアの皆さんからは、好意的なメッセージをたくさんいただきました。
——今回の広告は、企業変革に向けた取り組みの一環でしょうか。
当社はこれまで20年近くにわたって、デジタル化の加速を背景に様々な企業変革に取り組んできました。モバイルデバイスの普及やデジタル化に伴い、従来とは違う方法でコンテンツを届け、ユーザーを増やす方法はないかと試行錯誤を続けてきたのです。
その中で、2年ほど前から、より具体的な企業変革に乗り出すことになりました。きっかけは、約3年前に大企業のオープンイノベーション・組織改革を推進するベンチャーキャピタルWiL(ウィル)と組んで、組織改革に取り組み始めたことです。正月広告は、この企業改革への決意を表すものです。
そのプログラムの一環として、2018年8月から2020年2月まで、4回にわたって社員をシリコンバレーに派遣する「イノベーション・ブートキャンプ」を実施しました。各回約20人ずつ、計80人ほどの社員が現地のスタートアップと交流するなどして、大いに刺激を受けました。現在も社員1人がシリコンバレーに駐在しています。
また、2021年1月には「Future Creation Studio(未来創造工房)」を立ち上げ、社内新規事業として市民ランナー同士のマッチングアプリなどの社内ベンチャーを生みだしています。一過性のものではなく長い時間をかけて、少しずつ「変わらなければ」という空気感が醸成されてきました。
ユーザーファーストでいこう
——コピー「静岡新聞SBSはマスコミをやめる。」「決めた。」には、どのような想いを込めましたか。
ユーザーファースト、つまりお客さま第一主義でいこう、という想いです。
当社では、ニューヨークタイムズのイノベーションリポートを模して、県内外の方々や読者、社員などに「静岡新聞・SBSはどう変わるべきか」についてリサーチしてまとめた100ページ超のイノベーションリポートを公開しているのですが、このリポートで「ユーザーファースト」と謳っています。
マスコミは「発信者」であることから、どうしても独りよがりになりがちです。しかし、もう少しお客さま、すなわち読者・視聴者に寄り添い、彼らのニーズや生活の悩み、より良い生活を送るためにどのような情報を求めているのかよく知り、提供する義務があると考えています。
そのためコピーにも、こちらから一方的に情報を発信する「マスメディア」はもうやめよう、そんな意味を込めています。
——クリエイティブ・ディレクターは電通の澤本嘉光さん。広告の制作過程についても教えてください。
澤本さんには、かれこれ7年ほどクリエイティブ制作をお願いしています。例えば、2016年の静岡新聞75周年&SBS65周年のキャンペーンでは、自社を凄まじい勢いで超えるという意味で「超ドS計画」と題した企業広告を出しました。また、2018年には「超介さん」というキャラクターを変革の象徴としたブランドキャンペーンも実施しました。
これまでもオリエンの時には、当社が「変わる・変わっていく」ことを伝えたい、と話していたのですが、残念ながら一部社員から「メッセージがよく分からない」などという声もあり、変わらないことの“言い訳”のように使われてしまうこともありました。
そこで今回は、社員にも読者にも分かりやすいメッセージにすることを重視しました。また、「ローカル発で従来の新聞社・放送局、つまりマスコミのイメージを変えたいんだ」という想いも込めていただきました。
このコピーを最初に見たときは、「私たちも覚悟しなければ」と気が引き締まりました。コピーが示すように、私たちが目指すのは「従来型のマスコミからの脱却」ですから、素直に刺さりましたね。
実は、「決めた。」というコピーは、2022年への布石にもなっています。次年度の広告にもうまくつなげていきたいです。