※月刊『宣伝会議』3月号(2月1日発売)では「進化するデータと取引プラットフォーム 『テレビ広告』新時代」と題し特集を組みました。ここでは、本誌に掲載した記事の一部を公開します。
マスプロダクションの概念は日本の経済の仕組みのひとつ
「テレビでYouTubeを見る」「YouTubeでテレビを見る」という言い方があるように、“テレビ”という言葉には、複数の定義が存在しています。
映像を視聴するデバイスを指すのか。
放送局が展開する、ブロードキャストシステムのことなのか。あるいはコンテンツそのものを指しているのか。元々テレビというデバイスは放送局が制作したコンテンツのみを放映していましたが、例えば同じテレビの画面で動画配信サービスを視聴できるシステムが組み込まれたり、スマートフォンで放送局のコンテンツを視聴する場合もあります。メディアやデバイスの環境変化に伴い、その定義はますます流動的になっていると感じています。
デジタルとブロードキャストシステムとしてのテレビを対比したとき、その一番の違いはリーチ力です。例えば、国内トップシェアを誇るようなアプリ提供企業など、“デジタルを使いこなしている人たち”でも、数百万のダウンロード件数を達成するにはテレビCMによるリーチが不可欠なのだそうです。独自のコミュニティや販売ルートを持つ商品はひと握り。経済の仕組みとしてマスプロダクションの概念がある限り、マスリーチの手法は有効です。
デバイスとしての役割をみると、スマートフォンやPCはパーソナルな機器であるのに対し、テレビは唯一のマルチパーソンデバイスであることが特徴です。いま「若者がテレビを持たない」といわれますが、正確には「ひとり暮らしがテレビを持たない」。20代でも、2人で暮らし始めると、テレビを購入するようになるのです。家庭での共通言語をつくり出せるこのデバイスは、今後も残り続けるでしょう。
一方で個々人のアカウントに紐づけられる動画配信サービスの場合、視聴デバイスが家庭のテレビになると、その強みであるレコメンデーションが機能しなくなってしまう。
そこで再び、どんな性年代層がどのように視聴しているのか、アテンションデータ分析が重要になります。
テレビそのものの定義や見られ方が変わったとしても、誰に、どのようにクリエイティブを届けたいのか?その目的と課題を整理したいという企業の課題感は変わりません。
いまアメリカではOTT(Over theTop:インターネットを利用した動画配信サービス)の台頭が顕著で、視聴履歴や世帯構成をもとにCMを差し替える「アドレッサブルTV」や、地上波においてデータに基づいた枠の価値づけを行う「データドリブンリニア」という手法があります。地上波が主である日本国内では、後者の取り組みが強化されやすい。配信部分よりも、広告枠買付けの自動化やダイナミックプライシングなど、「買い方の進化」が進んでいくのではないでしょうか。
TVISION INSIGHTS
代表取締役社長
郡谷 康士 氏
月刊『宣伝会議』3月号(2月1日発売)
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