【前回記事】「震災から10年、住民参加型ニュースサイトの軌跡 ①新聞記者から、市民メディアへ」はこちら
もしも地域の現状を誰よりもよく知る「住民」が主役になり、ニュースを発信できるようなしくみができたら。これまで世の中に出てこなかったような情報や、自分を含め「プロの記者」が見過ごしてきた視点が表現されるようになり、より多様な地域の情報や価値観が反映され、人々が受け取れる情報、ニュースの世界はもっと豊かになれるのではないか。そんな仮説から、TOHOKU360の「住民がニュースを書く」しくみづくりへの挑戦が始まりました。
ゼロから立ち上げた「住民参加型」のしくみづくり
では一体、どうすれば地域の住民の方々がニュースを書いてくれるのだろう?私たちはその構想を、白紙のメモ帳に書き出してみました。まず、取材執筆の最低限の方法やルールを共有するために「ニューススクール」を開催する。そしてスクールを修了した受講生の中で希望者がTOHOKU360の「通信員」になり、自分のまちから伝えたい情報を自由に取材し、記事を書く。そしてメディア経験者がその記事を編集・校閲し、誤報のないニュースを全国に発信するーー。このしくみができれば、住民が現場から多様な情報を発信し、かつ正確な情報を発信するメディアが実現するのではないか、と仮説を立てました。
さて、メモ帳にあるうちはただの机上の空論。さっそく実践してみることにしました。TOHOKU360の開設から約半年が経った2016年の夏、仙台市で初めて「東北ニューススクール」を開いたのです。まだ地域とのつながりも薄く知り合いも少なかった当時、果たして人が来てくれるのだろうか、と非常に不安に思いながら開いたスクール。結果的には20人以上の方々が参加してくれました。そして参加者の方々が最後に提出してくれた取材記事を見て、「この仮説は正しかったんだ」と感動しました。これまで知らなかった地域の素晴らしい人々や活動の情報、独自の視点や表現が、文章となって次々と出てきたのです。
以来、仙台市を中心に青森、秋田、岩手、東京でもニューススクールを開き、ありがたいことに東北各地に約60人の通信員が生まれました。決して順調だったわけではなく、仙台から青森まで講師3人で車を走らせたら、到着した会場に受講生が一人しかいなかった回もありました(!)。それでも参加者や通信員から送られてくる地域のさまざまなニュースを読むと、こんな情報があったのか、こんな表現ができるのか、と毎回学びと感動をもらい、活動を続けることができました。