社会になくてもよいモノを売るために、私が実践したこと
その後、嗜好品が持つ価値や自分自身がマーケティングに従事する上で大切にしたい原点に立ち返り、「SNUS」でも同じことができないだろうかと模索を始めました。
何度も言ってくどいですが、「たばこ業界」の広告規制は深刻です。マス広告はうてない、20歳以上の成人喫煙者にしか広告をあててはいけない、著名人は活用できない。非喫煙者から見える位置での広告は禁止、世間で当たり前に行える広告手法がほぼ取れない‥。
「社会的にもなくてよいとされている商材」なのかもしれませんが、僕たちが見ているのは、その商品を好きな人、好きになってくれる可能性がある人であり、必要かどうかはその人自身が決めること。私たちにできることは、必要だと思ってくれる人の「π」をどれだけ増やし、好きになってもらえる余地をどれだけ創出できるかが勝負だと気づいたのです。
この勝負どころに気づいたとき、私はある発想の転換を行いました。今までポイントとして考えていた機能的価値での訴求をグッと抑えたのです。広告・プロモーションでできることがあまりにも少ないがゆえに短期的、かつ効率的に顧客を獲得できそうな機能的価値の訴求に走りたくなる気持ちを抑え、私が嗜好品の価値に気づいたときと同じように「情緒的価値」に訴求しよう、と考えを改めました。
では、情緒的価値に訴求し、この制限下でブランドを好きになってもらうにはどうすればよいのでしょう。社会になくてもよいモノに愛着を湧かせるにはどうすればよいのでしょう。発想の転換をおこなった後は、ここをテーマとしてたばこのマーケティングを検討することにしました。
私が機能的価値から情緒的価値に切り替え具体的にどういうアウトプットを出してきたのか、「ブランドを育てるとはどういうことなのか」については、次回のコラムでお話できればと思いますが、私は、制限とは自由と表裏一体だと思っています。制限のない自由があることで、手法や手段にばかり目がいき、「本当に届けたいブランド価値とは何か」という問いを忘れがちになるのではないでしょうか。使用可能なリソースで、丁寧かつ地道にブランドを育てていく方向へのマインドシフト、必要のないものならまずは好きになってもらうしかありません。
今回、コラムを書くことになり、駆け出しのマーケターとしての5年間を振り返ってみています。
泥臭く、そして青臭く奮闘する同じような年代、同じような境遇にいるマーケターの皆様にとって、少しものエールになればと思いこれからのコラムをつづっていきます。
黒髪祥
28歳、2016年に日本たばこ産業(以下、JT)に入社、
学生時代に、広告代理店を志望、McCANNやサイバーエージェントなどで長期インターンをするほどの広告おたく。その当時より、マーケティングやブランディングに興味があり、嗜好品という何とも抽象的かつ哲学的な領域のマーケティングやブランディングに興味がわき入社。1年目よりEPマーケティング部という「加熱式たばこの「Ploom」や「火を使わず灰も煙も出ないSNUS」などのマーケティングをつかさどる部署に配属され、その後「SNUS」のブランドマネージャーを経験。現在は、加熱式たばこ「Ploom」のPRを担当。日々、たばことコーヒーなどの嗜好品に囲まれる生活を送っている。