【座談会】新型コロナ感染拡大から1年、印象に残った広告は?(前編)

東日本大震災の教訓を活かした作品も

—ほかに国内の事例で印象に残ったものはありますか。

原野:ナイキとはトーンが全然違いますが、滋賀県のプロモーション動画「ニュートンに学ぶ、これからの滋賀ノーマル」ですね。

ニュートンに学ぶ、これからの滋賀ノーマル_長尺ver

すごくふざけているけれど、ステイホームが実は“創造や発見のチャンス”であるというメッセージは非常に洞察に富んでいます。「みんながんばろう」というだけの広告が多い中、賢さが際立った広告でした。「お見合いする近江米・押し合いする近江米・お見舞いする近江米」と三段重ねで畳みかけるクライマックスは圧巻ですよ。

もうひとつ挙げたいのが、日本赤十字社の「ウイルスの次にやってくるもの」。この作品は、2020年4月7日に緊急事態宣言が発出された直後の4月21日に公開されました。

「ウイルスの次にやってくるもの」

東日本大震災のときに「災いの中でポジティブなメッセージを発信すると目立つ」ことを発見してしまったクリエイターたちの、半ば売名行為のような作品が多く出てくる中、この作品は感染予防にとどまらず、そのあとの風評被害のような人間の内面や感情が引き起こす二次災害の予防にまで言及した佳作です。

人間の怖さを正面から伝える姿勢が素晴らしいし、真に東日本大震災の教訓を活かした作品として高く評価したい。地味な作品ですが、コピーやイラストレーションも実によく練られていて、そのレベルの高さに敬服するしかありません。テーマも深いし、絵本仕立ての語り口にすごく引き込まれる。本当に手練れの作品だなと。

佐々木:このイラストレーションは、電通OBでありカヌー・サークル「サラリーマン転覆隊」の隊長でもある本田亮さんの手描きですね。今、68歳ぐらいかな。おっしゃる通り、一段階先を読んでつくっていますよね。

佐々木康晴(ささき・やすはる)
電通 執行役員
デジタル・クリエーティブ・センター長

大学院にて情報科学を学んだ後、1995年電通入社。コピーライター、インタラクティブ・ディレクター、電通アメリカECD、第4CRプランニング局長等を経て現職。カンヌ金賞の他、D&ADイエローペンシル、CLIOグランプリ、One Show金賞などを受賞。2019年カンヌCreative Data Lions審査委員長、2020年D&AD Digital部門審査委員長、2021年Spikes Asia Digital部門審査委員長。日本でいちばんヘタで過激なカヌーイスト集団「転覆隊」隊員。

 

木村健太郎(きむら・けんたろう)
博報堂ケトル ファウンダー/ECD
博報堂 グローバル統合ソリューション局長
博報堂インターナショナル チーフクリエイティブオフィサー

バッグパッカー世界一周の後、一橋大学商学部を卒業。博報堂に入社し、いち早く戦略、クリエイティブ、デジタル、PRの国境を超えて統合的に課題解決をするスタイルを確立。2006年博報堂ケトルを設立。共同CEOとして「手口ニュートラル」をコンセプトに革新的な広告キャンペーンを多数開発する。カンヌ、D&AD、One Show、ACCなど、国内外の多数の広告賞を受賞し、国際賞の審査員経験や海外での講演も多数。2017年からは博報堂の海外ネットワークのクリエイターとプランナーを統括する役職を兼務し、ECD、局長、 CCOと3束のわらじを履いて年間100日以上海外を飛び回る生活をしてきた。ADWEEKの世界のクリエイティブ100に選出。共著に「ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる」。2021年秋に行われるロンドン国際広告際のフィルム部門の審査委員長に内定している。

 

原野守弘(はらの・もりひろ)
もり 代表

電通、ドリル、PARTYを経て、2012年11月、もりを設立、代表に就任。「NTTドコモ: 森の木琴」「OK Go: I Won’t Let You Down」「Honda. Great Journey.」「POLA リクルートフォーラム」「日本は、義理チョコをやめよう。GODIVA」などを手がける。2021年1月、『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓。

 
後編はこちら

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