「夢に出てくる亀は、分裂しがち」
これは、僕が「亀 夢見た」というキーワードでツイートを検索して見つけた法則です。もしも、みんなが見ている夢がすべて同じ世界での出来事だったら?そんな妄想から、夢の世界の百科事典をつくる「夢世界大全」という企画をnoteで連載しています。何のオチも脈絡もない夢の話でも、集めて並べて法則性を見出すことで、異世界の一端を垣間見るような壮大なストーリーが浮かび上がってくるのです。
そんな活動を細々と続けていたところ、著者の酒井さんから、この夢収集には「デジノグラフィ」の手法に通じるものがあるとの連絡をいただきました。この活動にそんな立派な名前がついていたとは……。デジノグラフィとは、検索ワードやSNSへの投稿などのビッグデータを通して人間の行動を観察する手法。アンケート調査などと違って、生の声や実際の行動記録を拾うことができるため、人々のよりリアルな無意識をあばくことができるとのこと。言われてみれば、夢はまさに無意識そのもの。アンケートやインタビューだけでは「夢の世界では亀が分裂する」なんて誰も知ることができなかったでしょう。
「亀が分裂することがわかったところで何の役に立つんだ?」と思われるかもしれませんが、これもデジノグラフィの面白いところ。ビッグデータは、データサイエンティストやエンジニアだけでなく、作家やプランナーの領域にもなりつつあります。日々大量に生まれるデータに手軽にアクセスできる時代だからこそ、それを扱う人間の視点や捉え方がより重要になるのです。
たとえば、街でふと聞いたカップルの会話から生まれた曲があるならば、ビッグデータから読み解いた人間の感情を曲にするアーティストがいてもいいかもしれません。たとえば、まだ顕在化していない人間の行動を発見し、最強のあるあるネタをつくる芸人。たとえば、「◯◯ 使い方」で検索されがちな、使い方のわかりにくい商品をリデザインするブランド。たとえば、絵文字使用率の統計を毎日とって、その日の平均顔をつくるプロジェクトなんてのも面白そうです。
データを、正解を求めるためだけでなく自由な創作に活用できると考えると、どんどんアイデアが湧いてきます。データには縁がない。自分は感覚派の人間だ。そう思っている人にこそ、勧めたい本です。
氏田雄介氏
1989(平成元)年、愛知県生まれ。早稲田大学を卒業後、面白法人カヤックに入社。2018年、株式会社考え中を設立し、企画作家として独立。著書は、ごく当たり前のことを詩的な文体で綴った『あたりまえポエム』(講談社)や、1話54文字の超短編集『54字の物語』シリーズ(PHP研究所)、迷惑行為をキャラクター化した『カサうしろに振るやつ絶滅しろ!』(小学館)など。「ツッコミかるた」や「ブレストカード」など、ゲームの企画も手がける。プランナーとしてCHOCOLATE Inc.にも所属。