「ニュースエコシステム」が育つ地域に
地域には新聞社やテレビ局だけでなく、情報誌やフリーペーパー、コミュニティラジオ、地域ブログ、YouTuberやインフルエンサーなど実にさまざまな情報発信の主体が存在します。メディアを論じる専門家には、大小さまざまなメディアが共存してそれぞれが情報発信する状態を、生態系になぞらえて「ニュースエコシステム」や「メディアビオトープ」という言葉で表現する方もいます。こうした地域情報の発信の担い手同士の連携が進めば、地域住民にとっての情報環境はよりよいものになっていくのではないでしょうか。
私は2018年から、NHK仙台放送局が制作する「ゴジだっちゃ!」というラジオ番組に毎週木曜日のパーソナリティーとして出演しています。声をかけて下さった杉尾宗紀アナウンサーは阪神・淡路大震災や東日本大震災を現地で伝えてきた経験から、いち早く「住民参加」のメディアの重要性を捉えていらっしゃいました。
「ゴジだっちゃ!」では宮城県内の各市町村に「だっちゃ通信員」がおり、いつも各地のほっこりする季節の話題を届けてくれます。同時に、災害が発生したときには現地のきめ細かい情報を的確に届ける、非常に重要な役割を果たしてくれます。
2019年の台風19号が東北に大きな被害をもたらした際にはTOHOKU360の通信員も番組に出演し、近所の被害状況について話してくれました。東北各地はもちろん、シンガポールやシエラレオネにいる海外の通信員とも電話をつなぎ、現地の状況をリアルタイムで話してもらったこともあります。こうしてメディアがお互いの持つネットワークを生かしながらうまく協力していけば、地域で今足りない情報を補い合い、よりきめ細かい情報を届けることができるようになるはずです。
2020年からはNHK仙台の夕方のニュース番組「てれまさむね」の木曜コーナー「みやぎUP-DATE」にも出演し、テレビとネットメディアとがどう連携できるのかを模索しています。地域の情報を厚くしていくようなメディア間の連携は、私にとってもわくわくする挑戦です。
TOHOKU360では2017年から「仙台メディアフェスティバル」というイベントも開催しています。新聞社、webメディア、雑誌、小説家、詩人、漫画家、コミュニティラジオ、ご当地キャラクター、VTuberなど、地域で活動するさまざまなメディアが一同に会し、日ごろの活動を紹介したり、読者と交流したりするイベントです。
2020年は「東北メディアフェスティバル」としてオンライン開催し、東北各地の発信者たちが集まりました。楽しいお祭りのようなイベントですが、そこから地域メディア同士の連携や新たな表現方法が生まれたら、との思いで開催しています。
「ニュース」を、みんなのものにしよう
ニュースの門戸を開き、多様な住民や地域団体にその制作過程に関わってもらうことで、メディアが地域で発揮できる役割はもっと広がり、ニュースはもっと多様で豊かなものになれるのではないでしょうか。独占的で一方的だった「ニュース」を、みんなのものに。そしてみんなで一緒に地域の未来を考えていく。メディア運営者として、そんな試みを続けていけたらと思っています。
TOHOKU360は、運営体制も資金も、信じられないほど脆弱です。伝統メディアが長い期間をかけて一定の信頼を積み重ねてきたことに比べれば、TOHOKU360というメディアも、住民がニュースをつくるこの取り組みも、まだ幼児のように小さく、挑戦は始まったばかりです。これを読んで「住民参加型」のメディアや地域連携に関心を持った方、新しいメディアの形を作っていくこの挑戦に、ぜひ参加してみませんか?ご参加、ぜひお待ちしています。
安藤歩美
1987年千葉県生まれ。東京大学公共政策大学院修了後、新聞記者として宮城県に赴任し、被災地の復興を取材。独立後2016年に東北の住民みんなでつくるニュースサイト「TOHOKU360」を立ち上げ、代表・編集長。毎週木曜日にNHKラジオ第一「ゴジだっちゃ!」とNHK仙台「てれまさむね」に出演中。