毎日の感染者の増減に一喜一憂する、その前提となる検査数や「陽性」の定義について論じる、政府の対策の良し悪しについて意見する。コロナ禍において国民が経験した、日々のデータを追う、前提や定義を疑う、データに基づいて行動する、これら一連の活動は、以前はデータ分析に関わる者のみが日常的に経験していたことだったのではないだろうか。大げさに言えば国難は国民をデータアナリストに変えてしまった。
本書では、日常的にデータ分析に関わる方も、コロナ禍に期せずしてデータアナリスト的行動をした方も楽しめる、恋愛や自撮りや寿司の購入額と言った身近な例を使ったデータ分析の事例が多く扱われている。従前の調査手法に加え、インターネットサービスから得られるビッグデータ、政府統計などの統計データを掛け合わせて分析することで、立体的な生活者像が結ばれることを紙上で追体験することができる。
本書でも取り上げていただいたヤフージャパン提供の分析ツール「DS.INSIGHT」は人々の検索行動から、手軽に世の中のトレンドやニーズ、不安や課題を捉えるツールである。検索行動は「知りたい」という起点で行われるため、「温度計を入れると温度が変わる」という調査・測定バイアスが起こりにくいデータと言える。本書では全編にわたり、必ずしも高度な分析技術に頼らずデータ本来の持つ価値を見出すという、いわば「素材の味を活かす」という姿勢でデータ分析に向き合われているところにとても共感を覚える。
データの価値を活かすには、正しい問いや着眼点を持ち、データを読み解くことが肝要である。本書の最終章では、データ分析における10の技法が解説されている。どれもデータサイエンスの高度な知識を前提としない内容となっており、多くの方にとってすぐに実践できる内容となっている。いずれコロナ禍が終わっても、うがい・手洗いの習慣とデータを見る習慣が多くの人に残ってくれることを祈っている。
谷口博基(たにぐち ひろき)
ヤフー データソリューション事業本部 本部長。東京大学工学系研究科修了後、マッキンゼーに入社し、ハイテク・製造業を中心に日本企業のグローバル化、提携、買収、新規事業開発、R&D戦略など幅広い案件に従事。2013年1月ヤフーに入社し、株式会社一休の買収、Buzzfeed社との合弁事業会社「BuzzFeed Japan株式会社」設立などを担当。2016年より全社横断のデータ部門で本部長を務め、2019年より現職。2019年10月、事業者向けデータソリューションサービスを立ち上げる。