第24回文化庁メディア芸術祭の受賞作品、および功労賞受賞者が発表となった。
本年度は、世界103の国と地域から応募された3693作品(うち海外から1751作品)の中から、部門ごとに大賞、優秀賞、ソーシャル・インパクト賞、新人賞、U-18賞を選出した。
また、日本科学未来館の球体展示に関する作品を募集したフェスティバル・プラットフォーム賞には、世界34の国と地域から応募された114作品の中から2作品が選出された。
功労賞は、メディアアート・映像文化史研究者/キュレーター 草原真知子、ガタケット事務局代表 坂田文彦、ゲームクリエイター さくまあきら、声優 野澤雅子の四氏に贈られた。
大賞の受賞は、以下の通り。
エンターテイメント部門では、岩井澤健治氏による「音楽」が大賞を受賞。また、優秀賞には、劇団ノーミーツがオンライン演劇として初めて受賞となったほか、Whateverとココノエが企画制作した「らくがきAR アプリケーション」が受賞。また、昨年発表されたACC賞でも2部門で大賞を受賞した「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」が、ソーシャル・インパクト賞を受賞した。
アート部門
「縛られたプロメテウス」
メディアパフォーマンス
小泉明郎
贈賞理由:作者はこれまで現代美術分野で優れた作品をつくってきた。彼の作品を見る体験は(誤解を恐れずに言うと)ホラーに近い。実際には怖いシーンは皆無なのだが、見ているうちに人間の抱える闇やグロテスクさ、しかしその奥にある人間の芯などがないまぜになり、登場人物と自分の距離感を失う。すごい作品を見たという充実感とともに、自分は今、空間識失調に陥ってしまったのではないか、というような不安感も抱かせる。そういう複雑な作用を観客にもたらすことのできる作家は稀有だ。VR演劇作品として発表された本作は、扱う技術はいつもと異なるものの、やはり小泉明郎作品であり、応募されたなかで作品としての力は際立っていた。演劇・VR・美術作品という本来融合させることがきわめて難しいものをひとつにまとめ、人間の持つ業とそれに救いを求める個人、そしてそれを取り巻く社会や未来を作品化した手腕は、今年度の大賞にふさわしいと審査委員のあいだで意見が一致した。(八谷和彦)
エンターテインメント部門
「音楽」映像作品
岩井澤健治
贈賞理由:バンドで経済的に成功するまで、あるいは文化的に挫折するまでを描いた作品は、過去膨大にあった。しかし、バンドで最初に音を出したときの、ふっと軽くな瞬間。生物が魂を宿したような、例えようのない時間をズバリとらえた作品は皆無だったように思う。作者自身が、一人で絵コンテや作画を7年もの歳月をかけてつくり上げたことと、結果として素晴らしいエンターテインメントが生まれたことは、無関係ではない。だが、必然でもない。同じように苦労して生み出された芸術作品は、数多くある。VFXやAR/VRなど多くの技術が点在する現代において、ロトスコープという古典的な手法で生み出されたアニメーションが、例えようもない時間を一番鮮明な形で残しているのが興味深い。驚くべきことに、この作品はまだ商業的に成功していない。審査委員としての任期最後の年、この作品を文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞に選べたことを、誇りに思う。(川田十夢)
アニメーション部門
「映像研には手を出すな!」 テレビアニメーション
湯浅政明
贈賞理由:制作者あるある。準備中のラフなイメージボードの方が実際の映像よりキマっていて「この絵のまま動かせば良かったのに」とガックリすること。丁寧につくり上げた映像も確かに良い。しかし、思いのままに鉛筆を走らせ、淡彩で色を乗せた絵が動くのを想像するのも楽しい。商業アニメがセルを使用していた当時は不可能に近かったが、デジタル化した今、本作品は実現した。その結果、何を生んだか?キャラクターや美術のルックも相まって作品内の現実と空想がないまぜになり、登場人物たちがイメージを共有していくさまを視聴者は台詞ではなく感覚で理解するという希有な映像体験を味わっていたのではないだろうか。しかもそれは毎週続く。キャラへの愛着、彼女たちの夢想への共感も増していく。全話数で初めて1本の作品であるというテレビアニメの不利を、本作品はむしろプラスに転じている。タイトルとは裏腹に、映像づくりへの愛おしさといざないにあふれているのが素晴らしい。(佐藤竜雄)
マンガ部門
「3月のライオン」 マンガ
羽海野チカ
贈賞理由:将棋など盤上の競技は、身体的な躍動を伴わないため絵にしづらく、マンガでは対決や成長を心理的に描写する技法が厳しく問われる。本作は、心理描写に関するマンガ史上の豊かな蓄積を生かし、独自の工夫も加えて、日々を静かな闘争に生きるプロ棋士の内面のドラマを活写した。キャラクターの魅力も抜群で、闘争心と仲間意識をないまぜにした奇妙で愛すべき棋士たちの生態を、一級の群像劇に仕立てている。また、月島界隈とおぼしき墨田川の風景が時に温かく時に厳しく、主人公たちの心の動きを受け止め、盛り上げ、まるで川も芝居をするかのようだ。加えて恋愛や家族のドラマも濃密で、和菓子グルメの要素もあり、シリアスとコメディを往還しつつ盛りだくさんに描く欲張りな趣向ながら、煩雑さは皆無で、するりと心に届く。個別の技術の高さと全体のバランスを総合的に評価し、物語が大きな節目を迎えさらなる高みへ向かうこの機に、大賞をお贈りするものである。(表智之)
エンターテインメント部門 大賞以外の受賞作品
優秀賞
・「劇団ノーミーツ」パフォーマンス
劇団ノーミーツ(代表:広屋佑規)[日本]
・「諸行無常」VRアニメーション
Jonathan HAGARD / Nova Dewi SETIABUDI /Andreas HARTMANN / Dewi HAGARD /
KIDA Kaori / Paul BOUCHARD[フランス/インドネシア/ドイツ/日本]
・「らくがきAR アプリケーション」
『らくがきAR』制作チーム(代表:宗佳広)[日本]
・「0107-b moll」映像作品
近藤寛史[日本]
ソーシャル・インパクト賞
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」プロダクト
『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』制作チーム(代表:吉藤健太朗)[日本]
新人賞
「アンリアルライフ ゲーム」芳賀直斗[日本]
「ウムランギ・ジェネレーション ゲーム」Naphtali FAULKNER[ニュージーランド]
「Canaria」ミュージックビデオ、VRアニメーション 油原和記[日本] 12
U-18賞
「Flight Fit」VR アプリケーション、VRゲーム 森谷安寿[日本]