社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーのブランド育成論

情緒を醸成するのは、時間と想像の「余白」だった

「SNUS」は当時、ほとんどの人が知らないブランドでした。ブランドを好きになってもらうどころか、そもそもの認知度が低い状態だったのです。

そこで、私がまず注力したのが広告クリエイティブ。広告では「好きになってもらう」前に、「まず見てもらう」ことを重視し、認知度の向上を図りました。認知度が高まるにつれ、今度は「なんか新しいな」、「なんかよいな」、「なんかかっこいいな」と思ってもらうことを目指したクリエイティブに変えていきました。

ただ先述の通り、情緒的に価値があると感じるポイントはそれぞれ異なります。一概に「新しさ」、「かっこよさ」ひとつとっても、人によって受け取り方は千差万別です。

なので、最初に広告会社の方にオリエンをするときは、かなり迷いました。

「なんかかっこいい」、「なんか新しい」って結局何なのか、どのような表現やトンマナにするのがよいのか、と頭を抱えた記憶があります。

悩んだ挙句、私が着目したのは商品自体の特徴。千差万別の誰かの情緒に寄り添った価値を見い出すことは非常に難しいので、商品が持っている、またはそれを使っているときになんとなく感じる「商品らしさ」を伝えることで「情緒的価値」を創出し、届けることができるのではと考えたのです。

訴求ポイントを情緒的価値に振り切ることにより、お客さまとのコミュニケーションに「余白」が生まれました。ここで言う「余白」とは、“時間的な余白”と、“想像的な余白”です。

時間的な余白とは、広告に興味を惹かれ、立ち止まり、商品について考える時間をとってもらうための余白。そして想像的な余白とは、その時間を利用して、メッセージを多様に受け取り、想像をかきたてることのできる余地のことを指しています。

私はそれまで、言葉によるコミュニケーションで機能的な価値をメインに発信してきましたが、「SNUS」においてはあえて多くを語ることなく、広告を見たときに「なんかよい」と思ってもらえることだけに特化して制作することにしました。広告を見るたった数秒の中で、お客さまに時間と想像の「余白」を与えることで、お客さまが自由に「情緒」を醸成できる機会をつくったのです。

具体的な手法として、以下のようにクリエイティブに落とし込みました。

・パッと一目見たときに、印象に残るような配色(たばこ商材ではあまり使わないPOPな配色)を使用
・各銘柄の特徴を人(モデル)に当てはめることにより、「流行感」の創出を図る
・あくまでも訴求するのは情緒的価値だが、機能についても言及。ただし、伝え方を工夫する
※登場人物(モデル)の生の声を表現し、商品の柔らかなイメージを伝えるべく手書きコピーに変えるなど

その効果もあり、広告展開後の「SNUS」の認知度は向上。販売数量も増加しました。

ブランディングやクリエイティブの制作に携わると、ブランドの何を伝えるべきなのか迷うこともあると思います。そんなときは、自分の担当するブランドを色々な角度から見てみてはどうでしょうか。私は、商品の「らしさ」を見つけ出し、その「らしさ」を広告・プロモーションに思い切って落とし込みました。結果的に情緒的価値としてお客さまに伝わり、好きになってもらうきっかけになったと考えています。

当時のSNUSの壁面広告。喫煙所などに設置された。※現在は使われていない。

次ページ 「ブランド育成とは、子ども育てることと同じ」へ続く

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