ルッキズムやジェンダーの問題が顕在化する昨今、こうした問題が潜在的であった頃に恩恵を受けていたコンテンツは手放しで楽しめるものではなくなっています。昨今はクイズ番組などで東大生ブームが起きていますが、このブームよりも早く存在していた、才色兼備を象徴する存在としての「東大女子ブーム」を先導した『東大美女図鑑』も、そのひとつです。
時代とともに変化するのは、読者ばかりではありません。ルッキズムやジェンダーの争点、コンテンツに付随する偏見や固定観念を理解した上で、「東大女子の輝く姿を紹介する」という特性を活かして読み手を傷つけることなく勇気づける媒体であるべく、つくり手である編集部は試行錯誤を続けています。
私も編集部に在籍し、試行錯誤を続けている一人です。この過程を明らかにすることは、社会の価値観の変化を受けたコンテンツの改革のモデルをひとつ示すことになるのでは?そんな思いから、次号vol.14編集長を務める私(望月)の視点からその軌跡を追いました。
「東大女子」のリアルを発信する『東大美女図鑑』
私たち東大美女図鑑編集部は、年2回の学祭に合わせて『東大美女図鑑』を制作しています。本誌は雑誌でありながら写真集に近く、その内容はタイトルの通り、東京大学に在学している「かわいい」女子学生を紹介するというものです。
誌面に載るモデルのみならず、撮影・編集・広報・学祭準備を行う編集部員16名も全員、東京大学で学ぶ学生で構成されています(モデルという呼称はやめるべきという意見が、編集部内にはありますが、ここでは便宜上、この呼称を使用します)。
近年は「『美しく知的な存在』としての東大美女のイメージを発信する」という創刊当初の目的を離れ、より一人ひとりの魅力を伝え、さらに本誌全体としては「東大女子のリアル」を発信することを目指しています。
手を伸ばせば届くより身近な存在として「東大女子」を認識してもらうことができたら。そして私たちは読者対象を、大学受験を控える高校生と設定しているので、読者にとっては自らの将来に重ねられるようなロールモデルに巡りあえる雑誌でありたいと思っています。
プレスリリース「どこに送ればいいかわからない」問題が勃発
私が編集部に入ったのは、2019年1月。『東大美女図鑑vol.10』で行われたリブランディング・ロゴの変更に際しての取り組みと想いが綴られたnoteの記事を読み、「これを執筆した西丸さん(noteの著者)と何かつくってみたい!」と思ったことがきっかけでした。
けれども編集部に馴染めば馴染むほどに、「私たちがつくっているもののゴールはいったいなんなのだろう?」という、漠然とした想いを抱くようになっていきました。そんな気持ちが最大化したのが、2020年11月のvol.13刊行時にプレスリリース担当になったときのことでした。意気揚々、過去に送っていたプレスリリースのデータやネット上のテンプレートを参照しつつ、取り掛かっていた数カ月前の私。
しかし、そこで「プレスリリースをどこに送ればいいかわからない」という問題に直面することになったのです。経験したことのない業務に戸惑ったのではありません。課題は、『東大美女図鑑』が与えたいインパクトのイメージが明確に共有されていないことにありました。
「女子高生にも届いてほしい」という想いはある。だからリリースには「ロールモデルを見つけてほしい」と書く。けれども、どれくらいの数の女子高生に届いて、どれほどの変化をもたらせるのかといったイメージは、私はもちろん、おそらくは部内の誰の頭の中にも描かれていませんでした。