テレビ関係者は「楽しくなければ…」に縛られていないか?
かつて「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンがありました。80年代のフジテレビで、自然発生的に使われるようになり、ある時キャンペーンで使用したのです。毎年視聴率三冠王を取るフジテレビのシンボルとなった言葉である上に、その後のテレビ全体を方向づけた気がします。他局もフジテレビに追いつけと、この言葉をどこか意識して番組を作り編成していたんじゃないでしょうか。80年代以降のテレビ全体のスローガンが「楽しくなければ」だったと言っても過言ではないと私は思います。
いまだにテレビはこの言葉に縛られていないでしょうか。NHKでさえ時に、硬い話題のコメンテーターに芸人を呼んで、「楽しくなければ」に走ったりしています。そうすれば若い世代にすり寄れると思っているんでしょう。
それは、思い込みだったのではないか。「楽しくなければ」に惹かれる人は今もいるけれども、意外に若い世代では少数派にすぎない。何か誤解してた気がします。
ここでハッと気づくのが、フジテレビが「楽しくなければ」を掲げたのち、改編期ごとにキャンペーンを仕掛けたことです。いちばん最初は「それ、世の中、動かしてますか。」をスローガンに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクことクリストファー・ロイドがキャラクターとして起用されたもので、このコピーを書いたのが佐々木宏さんでした。そしてCMの演出は中島信也さんだったのです。私はこのキャンペーンにものすごく衝撃を受けて、打ち合せのたびに参考例として持ち出し仲間から煙たがられたものです。いまだに私は、テレビ局のキャンペーンの最高峰だと思っています。「楽しくなければテレビじゃない」という、これだけだとちょっと軽いメッセージを、知的で骨太のものにしたキャンペーンだったと思うのです。
でもこれは1990年、今から30年前のキャンペーンです。時代は移り、人びとの感覚は変わりました。
テレビ番組は「楽しくなければ」視聴率が取れないしビジネスにならない、と思っているけどひょっとしたらオルタナコミュニティ型向けに番組を作ったら視聴率は取れなくても何か新しいビジネスになるかもしれない。
だったら「世の中を動かす」必要もないんです。もはや同じ国の同じ時代に生きていても、見えている世界はまるで違う。アプローチしたい相手に明確に近づくことが大事で、世の中は置いといていい。だって「世の中」という大きな集合体はもうないんですから。「これが世の中だ!」とつかんだつもりでも中身を見たらおじいちゃんだらけだったりする。
佐々木さんと中島さんがフジテレビの仕事をしていた偶然を連想ゲーム的に使ってしまい、お二人には失礼で申し訳ないのですが、何か象徴的な意味を感じてしまいました。
テレビというビジネスは、そしてそれに付随する広告ビジネスは、マスメディアだったからこそ成り立っていた。テレビがマスメディアでなくなると広告ビジネスの根本を考え直す必要がある。そうすべき時が来ていると思います。
それは例えばこういうことじゃないか、という未来の芽のような事例を見つけたのですが、それはまたこの、次がいつ載るかわからない連載で書こうと思います。暑くなってきた頃になるかな?