麻生太郎財務相が3月19日の閣議後記者会見で、質問をしてきた記者に対し「マスクなんて、いつまでやるのか?暑くなってきて口の周りがかゆくなって、皮膚科が流行っているそうだが」と逆質問する場面があった。この逆質問に対して、SNSやテレビの情報番組を中心に「政治家として無責任」「麻生節として片づけられない」などの批判が多くみられた。
また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗前会長が2月4日に行った女性蔑視発言を謝罪する記者会見では、記者の「森氏は組織委会長に適任と思うか」の趣旨の質問に対して「あなたはどう思うか」と逆質問。「適任じゃないと思う」との回答が返ってきて、辞任を招くストレート・パンチを食らった格好だったとの評価もある。
これらの2つの事例では、記者への逆質問は「逆効果」だったようだ。では、なぜ逆効果だったのか?どこが悪かったのだろうか?
逆質問は絶対にしてはいけない?
逆質問という言葉の定義は「質問に回答せず、逆に聞きかえすこと」だと思う。私は記者インタビューや記者会見を効果的に行うための訓練である「メディアトレーニング」を仕事の一部としているが、そこでは「逆質問は絶対にしてはいけない」と説いている。
「なぜ?」と聞かれた場合「そんなこと当たり前でしょう」と答える。記者は読者・視聴者の代わりに質問しているのだから、読者視聴者が求めているのは話し手の回答である。記者の質問に答えずに記者に質問するのは、ナンセンスなパフォーマンスでしかない。
ただし、記者に質問すること自体は、決して悪いことではない。逆質問の問題点は「記者の質問に答える前に質問する」ことだ。記者の質問に答えてから同じテーマで記者に質問することを「逆質問」と呼べるかどうかは別として、このやり方は時には非常に効果的だ。
たとえば、麻生氏が「マスクなんて、いつまでやるのか?暑くなってきて口の周りがかゆくなって、皮膚科が流行っているそうだが」と言った後に、「私は、人間が下着を着用し始めたのと同じように、マスク着用も人間のニューノーマルとなって、人類が存続する限りいつまでも続くと思っているが、記者諸君はどう思うかね?」と先に(これは麻生氏の考えではないだろうが、ともあれ)ひとつの回答を話してから記者に質問したとすれば、いくぶんか好意的な報道がなされた可能性が高いと思う。
森氏の場合も、記者からの「あなたは組織委会長に適任と思いますか?」との質問に対して、例えば、「女性蔑視と受け取られた私の発言については深く反省していますが、組織委員会会長としてこれまでやってきたこと、今後やらなければならないことを考えると、自分としては適任と思っている。あなたはどう思いますか?」などと、先に自分の答えを話してから質問すれば違ったのではないか。記者もすぐに「適任じゃないと思います」とは口に出しにくかったはずだ。