音声メディアこそが広告主の期待に応える — TBSラジオ・三村社長に聞く

音声コンテンツの特性や、音声メディアならではの強みを生かしたマーケティング・コミュニケーションの可能性についてTBSラジオと考える3回企画。最終回は、TBSラジオの三村孝成社長です。ラジオのメディア価値を明らかにすべくradikoリスナーの聴取データを積極的に活用する一方、視覚メディアとは異なる音声ならではの可能性について研究するなど、様々な取り組みを進めています。注力している4月からの新番組も紹介いただきました。

第1回:なぜ、いま音声なのか?視覚と聴覚の差異から最適なコミュニケーションを考える
第2回:なぜ、明治はラジオを使うのか? 番組提供の理由と手応えを聞く

三村孝成氏(TBSラジオ 代表取締役社長)

 

新たなリスナーの獲得に投資したい

—2018年の社長就任後間もなく、ラジオ聴取率調査の時期に合わせて特別編成を行う「スペシャルウィーク」の廃止を打ち出したことが話題になりました。

三村:聴取率調査そのものを否定したいのではありません。この数字が、経営指標のひとつであることに疑問を感じたのです。

お茶の間にテレビが登場してから、“ラジオの危機”は幾度となくささやかれてきました。2020年のラジオ広告の市場規模は1066億円、ピーク時(1991年で2406億円)の半分以下です。一方で、先達たちは各局間で聴取率を競い合い、スペシャルウィークの期間中は番組宣伝に力を入れてきました。

私たちはその結果について、冷静に分析するべきだと思います。リスナー数もピーク時の3分の2以下に減っていることを考えると、聴取率争いでしのぎを削っても、中長期的なリスナー拡大やその先にあるラジオ広告市場の拡大にはつながっていないどころか、逆効果になっているのではないでしょうか。

では、何をすればいいのか。「VUCA」(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代ですから、試してみるほかありません。スペシャルウィークの廃止は、これまで何十年もの間、2カ月に1度の聴取率調査期間のために使っていた番組宣伝費を、まだ番組を知らない人たち(ノンリスナー)にラジオの魅力を知ってもらうために回してみようという試みです。正しい選択かどうかは、後の時代の人たちが判断することでしょう。

—広告主の見方も変わっていますか。

三村:今は商品・サービスごとにマーケティング予算が決まっていることがほとんどです。個々のマーケティング課題に応えるために何ができるか、具体的に提案できないメディアは、まるで相手にされません。TBSラジオは首都圏で聴取率トップを何十年も続けています。有難いことですが、セールスにおいてはほとんど意味をなさなくなっています。ひと昔前なら、媒体ごとに年間予算をざっくり取っておき、たまには“お付き合い”で出稿いただける企業も少なくありませんでしたが、そんな時代はとうに過ぎたのです。

 

radikoデータの活用でマーケティング課題の解決へ

三村:広告主のニーズに応える土壌はできつつあります。インターネットラジオのradiko(ラジコ)なら、リスナー数や男女比、年齢構成別の聴取状況をリアルタイムで把握することができます。さらに、「お酒が好きな人はどのくらいいるのか」「ドライブ中にラジオを聴く時間は?」といったリスナーの嗜好や行動履歴をかけ合わせて分析することができます。ユーザーも増え続け、月間約900万人分のradikoリスナーのデータを活用できることも魅力です。

広告主はマーケティング課題を解決したい、ブランド価値を上げたいと真剣に考えています。われわれラジオ局も、データを基にリスナーの属性や嗜好を明らかにし、意欲形成や行動変容を促せるプランを提供することで、そのニーズに応えられる時代が来たと考えています。

—2019年にScreenless Media Lab.を設立したのも、ラジオメディアの効果を研究するためでしょうか。

三村:ラジオも含まれますが、音声メディア、音声コンテンツの持つ力について幅広く研究しています。視覚メディアは多くの人にスピーディーに伝える力がありますが、意欲形成を促す力があるのは音声メディアです。なぜなら、音はスルーしにくい情報なので、パッと見てわかる視覚のような一覧性はないものの、じっくりと意欲を喚起する力があるからです。

視覚と聴覚では情報の認知のされ方が異なることは国内外の研究成果から分かっています。音声メディアの可能性を科学的に探求し、エビデンスを積み上げて、その成果を広く社会に還元していきたいと取り組んでいます。「TBSラジオ」と掲げていないのは、他のラジオ局や音声コンテンツにかかわる事業者にも参画してもらい、マーケティング装置として音声をどう使っていけばいいか、知恵を出し合っていきたいと思うからです。

「地方創生」テーマの新番組を4月から全国ネットでスタート

—Clubhouseへの注目など、若年層が音声メディアに着目する好機が訪れています。

三村:企業やブランドだけでなく、個人でも音声コンテンツをつくれるソリューションが増えたことでハードルが下がり、世界的にラジオや音声の時代の流れが来たなと感じます。せっかくいい波が来たのなら、音声事業者同士が競い合うより、力を合わせて音声コンテンツの価値を最大化していくのが理想的ではないでしょうか。

この4月からスタートする「地方創生プログラム ONE-J」(毎週日曜日、午前8時~10時)は、「地方創生を解決する新たなプラットフォームをつくる」をコンセプトにした番組です。JRN系列の全国32のラジオ局と一体感をもち、ローカル情報を全国に流通させることに継続的に取り組み、SNSも運用しながら全国のリスナーとのコミュニケーションも大切にする双方向のメディアとして、ラジオ局の社会的使命を果たしていきます。

「地方創生プログラム ONE-J」は4月4日から、日曜日午前8時~10時に放送される。

具体的には、各地のタクシー運転手さんやバスガイドさんと電話でつないで、旅行雑誌に載っていないような観光スポットをレポートしてもらう「ローカル・レコメンド」や、社会を変える挑戦をしている人物・企業・団体などにスポットを当てる「トゥディズ・ピックアップ」といったコーナーを設け、各地で地域活性化のために新しい取り組みを行っている方々に出演いただく予定です。

地方創生やSDGsは、あらゆる業界の大手企業にとって重要な経営課題です。ONE-Jのような取り組みに関心を寄せてくださる方も多いのではないかと思います。こうした取り組みを面白いと感じてくださった各地の事業者やクリエイターなどにもかかわっていただくことで、より大きなムーブメントにしていきたいですね。

TBSラジオ
代表取締役社長
三村 孝成氏

1961年生まれ。83年慶應義塾大学卒業後、読売広告社入社。酒類の広告制作やテレビ番組の企画制作に携わる。93年J-WAVEに入社し、編成局長などを歴任。2005年TBSラジオ&コミュニケーションズ(現TBSラジオ)入社。07年に開局したクラシック専門局「OTTAVA」のクリエイティブディレクターなどを手がける。16年メディア推進局長。18年6月から代表取締役社長(現職)。

 

「地方創生プログラム ONE-J」
番組Webサイト https://www.tbsradio.jp/onej/
番組Twitter @onej_sunday
ハッシュタグ #onej

お問い合わせ
TBSラジオ営業サイト

URL:https://tbsrsales.jp/

 

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