不祥事の広報対応を担う企業広報にとっても他人事ではない「目安箱」の設置。その危険性と、企業広報が気を付けるべき点は。企業の内部通報制度に詳しい森原憲司弁護士が解説する。
【謹告】朝日新聞社はLINE社の不祥事を暴くための「目安箱」を24日付の朝刊で告知します!LINEおよび関係会社のみなさま、日本の情報行政を改善するための情報提供をお待ちしております!みなさまのご支援こそが我々の糧です!どんな情報でもかまいません。お待ちしております!
これは、同紙記者のTwitterアカウントから発信された投稿である。
このような内部告発の呼びかけは、企業広報にとって他人事ではない。これまでにも、『日経ビジネス』による東芝の不正会計問題報道など、企業内不祥事を暴くための呼びかけはなされてきたが、今回のようにSNSで呼びかける事例も増えてくるかもしれない。
企業内には「内部通報受付窓口」がある
多くの企業には「内部通報受付窓口」が設置されている。その目的は、内部通報によって、早期に企業内の問題を発見し、自浄作用により自ら問題を克服することにある。
今回記者が情報提供を呼び掛けた「目安箱」は、不祥事を暴くことを目的とするものである。該当企業の顧客にとっては、企業が自浄作用により問題を是正しようが、マス・メディアによる外圧で問題が是正されようが、顧客が迷惑を受けるような状況がなくなればそれで足りるのであり、さしたる問題ではない。
しかし、企業にとってみれば、マス・メディアという外部者の圧を受けてようやく問題を是正できる企業と顧客に映るのか、自ら問題を発見して是正できる企業と顧客に映るのかはとても重要な問題である。
「目安箱」にはどう対応する?
「弊社にLINEの内部告発が相次いでおります」と先の記者はTwitterに書き込んでいる。
多くの企業が「内部通報受付窓口」を設置しているにもかかわらず、マス・メディアが設置した「目安箱」への告発が相次ぐといった事態が生じるとすれば、その原因はどこにあるのだろうか。
それは、企業内に設置された「内部通報制度」への不信感である。
公益通報者保護法は、企業内部への通報と外部への通報のハードルの高さを変えている。企業内部への通報は「通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合」であれば保護されるべき通報となる。「問題がありそうだと思ったら」通報できるのである。
これに対して、外部への通報は、平易に説明するならば、「問題がありそうだ」と思ったレベルでは足りず、問題があると「信じるに足りる相当の理由」があり、かつ「この会社は通報すれば不利益取扱いをやるだろう」「この会社は通報すれば証拠隠滅・偽造・変造をやるだろう」「この会社は『通報なんかすれば会社人生終わるよ』と管理職が言っている」「この会社は通報しても20日以上調査を行わなかった」といった状況が社内に存在する場合に初めて保護されることになる(公益通報者保護法第3条)。
「この会社の内部通報制度はあてにならないな」と多くの社員が感じているような会社であれば、社員は問題に直面したとき会社に是正を期待しないため外部に救いを求めることになる。いわば、外部に救いを求めざるを得ないような状況(不利益取扱い・証拠隠滅・通報制限・調査懈怠)を放置しているような会社の社員を法は保護するのである。
裏を返せば「社員が信頼するに足る内部通報制度」を設置している会社の社員が不用意に外部通報した場合、その社員は法の保護を受けることができないことになる。
つまり企業側が、従業員による外部の「目安箱」への通報による是正ではなく、会社自身の自浄作用を発揮させることを望むのであれば、まずは社内の内部通報制度への信頼度を向上させることがもっとも合理的な選択となるのである。