コピーは広告だけじゃない
実際にこの潮流は日本でも生まれています。
2018年に広告代理業や各種ITサービスを手がけるサイバーエージェントがコピーライターを年間で30名募集することが話題になりました。その募集要項からは、マス広告やネット広告を強化する目的はもちろんWebコンテンツ・サービスの質をテキストの側面から向上していくという企業としての意思が見えました。
また、フリマアプリ・メルカリもコピーライターを募集しています。その募集要項がとても興味深いものでした。いわゆるコピーライティングだけでなく、「エディトリアル」や「校閲」も業務内容に含まれ、「サービスのUXデザイン関わる」というものです。これこそまさに「UXライティング」そのもの。
私がはじめてUXライティングの勉強会をやらせていただいた時もライターの方だけでなく、サービスの利用方法を文章で説明するテクニカルライターや事業会社のマーケターなど、多岐にわたるバックボーンの参加者が集まりました。コピーライティングのスキルが活躍する機会は広告のキャッチフレーズだけではなく、サービス内の文言全体に広がっていること。また、サービスをより良いものにするためにはふさわしい言葉遣いを駆使することに気づき始めた人が確実に増えていると実感しました。
こんなところもUXライティング
2019年10月に消費税が商品価格の10%に増税され、そのタイミングに合わせて発信された無印良品の「10月1日以降も価格を変えません。もちろんこれからも消費税込み価格。」というコミュニケーションが話題になりました。キャラクターがユーモラスであることが注目されましたが、なによりも「消費税込みの総額表示を継続する」というまっすぐな姿勢がすばらしいと私は思いました。
「買い物をする時に、税込なのか税別なのか考えないといけない」「税込だと思ってレジに行ったら税別だった」。いずれも消費体験としては残念なものです。
その時は購入するかもしれませんが、間違いなくその商品や店舗に対してのイメージは良いものではありません。今年(2021年)の4月からは総額表示が義務化されますが、商品の購入という顧客体験を考えれば1日でも早くわかりやすい価格で表示してもらった方が良いに決まっています。私自身も、お手伝いしているクライアントの商品の価格を表示する時は「税込価格にしましょう」と提案しています。このように、ユーザーにとって良い体験を提供するテキストコミュニケーション全体を考えることがUXライターの仕事であると考えています。
他にも、スマホアプリのダウンロードからプッシュ通知・利用を促進させるASO(アプリストア最適化)、チャットボットの人格設計やテキストでのやりとりの文言の考案、そしてスマートスピーカーとの会話のキャッチボールの構成を考えることもUXライティングの範疇であると考えています。
世の中に優れたサービスはたくさんありますが、それをユーザーが触れる瞬間の体験が良いものばかりとは限りません。良いサービスを良いかたちでよりたくさんの人に届ける機会を増やす。UXライターが増えれば、そんな世界が実現できるに違いありません。