*本記事は4月1日発売の『広報会議』5月号の転載記事です。
INTERVIEW
『プロフェッショナル 仕事の流儀』
NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』は今では珍しくなってしまった、「ひとを追いかけること」にこだわり抜いたドキュメンタリー番組だ。チーフプロデューサー(CP)の荒川格氏と末次徹氏に話を伺った。
トップの喜怒哀楽に迫る
ひとを追いかける番組だけに、人選は極めて重要だ。どのような「プロフェッショナル」が、取材対象となるのだろうか。「あらゆる分野のナンバーワンのひとを取り上げるのが、番組開始当初からの原則です」(荒川CP)。「トップオブトップと言える方々、野球選手ならイチロー選手、映画監督なら宮崎駿さん、俳優なら高倉健さんを取り上げてきました。コンセプトは揺るがないようにしています」(末次CP)。
15年間に渡って、数多くのトップオブトップを取材してきた『プロフェッショナル』。それぞれが最も印象に残っている回を聞いた。
荒川CPは、宮崎駿監督を取材したときが、忘れられないという。「最初は断られたのですが、鈴木敏夫さん(スタジオジブリ・プロデューサー)が『書生として置いてあげれば』と言ってくれて。宮崎さんも『それなら』と受け入れてくれました」(荒川CP)。
それから、宮崎駿監督との1対1の真剣勝負が始まる。宮崎さんから「書生ならひとりで来い」と言われ、カメラマンなどは同行させずに、小型カメラを持って、ひとりでアトリエに通うことになった。「宮崎さんから、もっと良い言葉や深い精神性を引き出せたのではないか。自分の人間性の浅さを痛感させられました。超一流と20代後半の若造が向き合わないといけない。まさに、血の涙を流しながら制作者として成長していくという感覚です」(荒川CP)。
末次CPが印象的な回は、市川海老蔵さんへの取材。「インサイドに踏み込みすぎて、(海老蔵さんから)『もう来ないで』と怒られました。その時は『あそこまで突っ込まなければ良かった』とひどく後悔しました。しかしその後、詳しい事情を説明せず、当時のCPに試写を見てもらったところ、ちょうど海老蔵さんから自分が怒られる原因になったシーンを見て『今回の核はここだな』と」(末次CP)。
人を追いかける番組だからこそ、相手にどれだけ踏み込めるか、そのひとの喜怒哀楽に迫り核心に触れられるかが、極めて大切となってくる。そこへの追求が徹底されていることで、クリエイティブ誕生の瞬間を捉えられたり、その人の本当の言葉が聞ける番組になっているのだ。
市井の人に焦点を当てるように
各界のナンバーワンを取材してきた『プロフェッショナル』。コロナをきっかけに、新たな挑戦も始まっている。ゴミ収集員、路線バス運転手という、エッセンシャルワーカー(生活維持に欠かせない職業)に焦点を当てたのだ。「コロナという状況の中で、私たちの社会を支えている人たちを見たいと思いました。番組名で“仕事の流儀”と言っているのに、エッセンシャルワーカーに触れないわけにはいかないのではないかと。もちろん、ゴミ収集の世界で『ナンバーワン』が誰なのかを明確にすることは困難です。ですが考え方を変えて、この人をやる意味があると見定めたら、思い切ってやることにしました」(末次CP)。
ゴミ収集員やバス運転手を主役に据えるのは、テレビの常識ではかなり珍しい。画的には美しいとは言い難い。主人公の動きは乏しく、特別、番組のクライマックスといえるストーリーも期待できないように思えるからだ。
だが、『プロフェッショナル』は従来の番組の枠組み、さらには「テレビの常識」を超えて挑んだ。「ゴミ収集員の回は数字が落ちても良いからやろうと。しかし、結果として視聴率は通常回よりも良かった。時代の要求が変わってきていることを感じます」(荒川CP)。
若い世代により見てもらえる番組でありたい。そのために、最近では中学生への出張授業にも取り組み始めた。「中身には自信を持っていますが、(若い世代が視聴するには)敷居が高いと言われることもあります。見やすくしていくなど、これからも模索を続けていきます。番組の核を外してはいけないですが、逆にそこさえ外さなければ、何をやってもよいのだと思っています。チャレンジしていきたいですね」(末次CP)。
新年度からは、人、そして本物の取材にこだわりながら、さらに挑戦的な演出をいくつも温めているという。『プロフェッショナル』のつくり手たちもまた、番組の取材対象と同じように「プロフェッショナル」であり続けるために、これからも挑み続ける。
下矢一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント・合同会社ストーリーマネジメント代表
早大大学院(物理学)修了後、テレビ東京に入社。『WBS』や『ガイアの夜明け』のディレクターに。ソフトバンク転職後は、新規事業企画を担当。現在は、広報担当のための勉強会「広報実践会」を主催。著書に『タダで、何度も、テレビに出る!小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)。
『広報会議』2021年5月号
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