マーケティングのインパクトを“さざ波”から“波”に変えてきた
佐藤:楽天との仕事が始まって18年目。最初は、ブランドロゴの制作に携わらせていただきました。
三木谷:可士和君にチーフクリエイティブディレクターに就任してもらったのが2003年。それ以来、何かを始めようとするときはだいたい可士和君に相談しているのだけれど、一度も否定されたことはない(笑)。
佐藤:ただ、2004年に野球界に参戦すると聞いたときは驚きましたよ。
こんなマーケティング手法があるのかと。実際、一瞬にして楽天の名が日本中に知れ渡りました。
三木谷:可士和君とはマーケティングが起こすインパクトを最初は“さざ波”であっても最終的に“波”にするにはどうしたらいいかを考えてきました。「楽天スーパーセール」、キャラクターの企画、デザインラボの設立、昨年のフォント開発など、さまざまな分野で共創してきました。
佐藤:楽天のビジネスをデザインでよりパワフルにしていくことを目的として設立した楽天デザインラボも3年目。クライアントの社内に新しい組織をつくるお手伝いは、僕にとっても初めての経験でした。2020年のフォント開発もこの楽天デザインラボ主体でロンドンのデザインスタジオDalton Maag社と行ったのですが、よいものができましたよね。
「統一感」と「多様性」2人が考える楽天の独自性
佐藤:三木谷さんは以前から「楽天のテクノロジーを可視化したい」と言っていて。今回、佐藤可士和展でそのアイデアを具現化させたのが「UNLIMITED SPACE」。楽天の持つ高度な技術をクリエイティブで表現するのは初めての挑戦でした。
三木谷:私はデータなくして戦えないと考えているのですが、このクリエイティブからはデータ社会の到来と、人間の融合を感じました。まさにデータビジュアライズ。
佐藤:楽天は「お買いものパンダ」や「楽天カードマン」など、親しみやすいマーケティングコミュニケーションが印象的です。しかし、実はそれらを創出した背景には楽天の持つテクノロジーで培った膨大なデータがあることをデザインで表現したかったのです。今回、クリエイティブという形で楽天を表現しましたが、三木谷さんはビジネスをするうえで何を大切にされていますか?
三木谷:まず、私が大切にしたいのは「統一感」。事業を継続するうえで、サービスのアイデンティティとUXの統一感をどうプレゼンするかが重要だと考えています。現に世界のトップIT企業はそれらの統一感を大切にしていますよね。加えて、そのアイデンティティには個別サービスだけでなく企業のアイデンティティも表現されている必要があります。多くのトップIT企業は複数のサービスを展開しているので、こうした統一感を意識せざるを得ません。
現在、70以上のサービスを展開する楽天は、それらの企業よりも多様な事業を展開しているといえます。そんな多面的な性格を持つ楽天を、どう統一感のあるブランドにするのか、いつも可士和君と話しています。
佐藤:楽天にしかできないブランディングのメソッドをつくろうと話しているのですが「マスターブランドがありながら多様なことをしたい」という三木谷さんの願望にどう応えようかと思っています(笑)。
三木谷:楽天の独自性は「統一性」と「多様性」の両方を持ち合わせていること。相反する2つの概念をひとつに「包み込む」コミュニケーションの手段としてテクノロジーとデザインがあるのだと思います。
テクノロジーとデザインの融合 人々の生活をより豊かに
佐藤:多様性が魅力の楽天。どこまで事業を広げるつもりなのですか?
三木谷:「人の役に立ちたい」というのが楽天のアイデンティティ。人の役に立てることがあるのなら今後も対応し続けます。例えば、コロナ禍ではPCR検査を受けられるサービスも始めましたし、ソーシャルディスタンスロゴも可士和君の協力のもと制作しました。さらに言うと、インターネット出現の前後など、何かが生まれた後は社会が大きく変わる転換点になるはずです。それはコロナ禍も同様。その中で我々の持つテクノロジーやデザインで人々の生活をよくしたいですよね。
佐藤:僕は人々の生活を豊かにする性格を持つ「テクノロジー」と「デザイン」を掛け合わせることで、テクノロジー自体を可視化し、わかりやすい形に変換して人に伝えることができるようになると思うのです。
つまり、さらに人の役に立つものが生まれる。デザインには、新しい視点を社会に提示する役割があると可士和展を通じて再認識しました。
三木谷:楽天の展開する事業は多岐にわたります。その多様さを表現するときに「干物からビットコインまで」という言葉をよく使うのですが、その性格を、優しさと愛情あふれるクリエイティブを発信することで皆さんに届けていきたいです。
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