仕掛人が考える「D2C」の現在地 ー木本梨絵・小林百絵・古谷知華

「D2Cブランド」が次々と登場する中、実際の担い手であるクリエイターたちは、その定義や位置づけをどう見ているのだろうか。D2Cブランドのコンサルティングを多数手がける、HARKEN 代表 木本梨絵さん、DAYLILY CEO 小林百絵さん、「ともコーラ」のプロデューサー 古谷知華さんの3人に話を聞いた。(本記事は『ブレーン』2021年5月号の特集、「ユーザーの心を動かすD2Cブランドのデザイン戦略」に掲載したものです) 。

(写真左)木本梨絵(きもと・りえ)クリエイティブディレクター/HARKEN代表。
1992年生まれ。武蔵野美術大学非常勤講師。業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクション、デザインを行う。ディレクションを担当した主なプロジェクトに、入場料のある本屋「文喫六本木」、東京都現代美術館内にある「二階のサンドイッチ」、コスメブランド「&WOLF」など。グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。(写真中)古谷知華(ふるや・ともか)「ともコーラ」プロデューサー/調香師。
1992年生まれ。東京大学工学部建築学科卒。平日は広告代理店で働く傍ら、個人でフードプロデューサーとして「ともコーラ」やノンアル専門「のん」などの食のD2Cブランドを開発・経営する。専門領域はブランディングや新規事業開発。食への知識を活かし複数雑誌にて連載も執筆中。

(写真右)小林百絵(こばやし・もえ)DAYLILY 共同創業者/CEO。
1992年北海道出身。慶應義塾大学卒、同大学大学院メディアデザイン研究科を修了し、電通に入社。退社した後、台北で漢方薬局を営む父を持つYi-tingと共に漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY」を台湾で創業。台北に旗艦店を置き、現在は日本に5店舗を構える。

「D2C」がブランドを考え直すきっかけに

古谷:「D2C」というワードが徐々に浸透してきていますよね。数年前まで、新商品の情報発信は大企業によるものが中心でしたが、今は小さなブランドによる商品広告がSNS上で日々配信されています。たとえば化粧品においても、以前は主に化粧品会社や技術保持者だけがつくっていましたが、OEMで製造委託することで、いわば誰でも商品をつくることができる。そうなると、ブランディングが物を言う時代ですよね。

木本:Shopifyなどを用いたオンライン通販は増えた感覚はあるけれど、本質的な「D2C」の定義が曖昧ですよね。私が定義するD2Cは、「心理的なコネクトをしているブランドである」ということです。

「商品つくりました。ネットに売ってます。卸はなく直販オンリーです」ということがD2Cの特徴ではありません。たとえば、コミュニティがつくられていたり、継続的にブランドの発信がされていたり。もしくは創業者の思いへの共感を通じて商品が買われていたり。またジュースのブランドなのに暮らし全体のことを発信しているなど、包括的な価値観や思想をきちんと発信して、それに消費者が共感して購入する、心理的なつながりがあるものがD2Cの一番本質的な特徴だと考えています。今はまだ、そこまでちゃんとやりきれているブランドは日本では少ないと思います。

小林:D2Cブランドと言われるものは日本でも一昨年あたりから増えてきましたが、ビジネス手法としてあまりにも擦られすぎていて、本来のD2Cの在り方がどんどんわかりづらくなっているのかもしれません。特に最近はそういったブランドが一気に増えた感覚があり、「D2Cブランド」として一括りにされることに少し抵抗があります。

古谷:たとえば、ニューヨーク発のコスメブランド「Glossier」はD2Cブランドとして有名ですが、「D2Cをやろう」という起点から生まれたのではなく、消費者の意見を聞きたいからブログを書くし、画像情報だけでなくもっと細やかに情報を広げたいからPodcastをするし……というように想いありきで、その伝達のため適切な手段を広げていった結果、マルチメディア展開になったようです。D2Cブランドづくりが目的になって、そのためにわざわざ発信することをつくるのは順番が逆だなと思います。

木本:クライアントワークをしていると、確かにそういう依頼は多いですね。私の場合は大手企業からの依頼も多く、「D2Cをやりたいんです」という感じだと危険だなと思っていて。そうではなく、本質的なコミュニケーションを重ねた結果、「外からはD2Cと言われているけど、私たちは普通にブランドをつくっているだけ……」という状態のほうが適切だと思いますね。

古谷:5年ほど前の「IoT」ブームに似ている気がして。勤め先にIoTの依頼がたくさん来た時代があったんです。でも「その先で何をしたくてIoTなんですか?」と疑問に思うことがよくありました。

木本:“マジックワード”ですよね。かつてのIoTがそうだったように、今も「D2Cをやります」と言ったら上司の許可が下りやすい、わかりやすい便利なワードとして出回っている節もある気がします。私は仕事をお受けする時、「D2Cといっても、実際どんなことをやらなければいけないか」を話すようにしていますが、はじめはもちろん理解が浅い方もいて。そんな時は、やるべきことを一覧で説明するようにしています。

ただ、その項目は「日々想いを発信する」「ちゃんとお客さまの意見を聞く」など、よく考えれば根源的なブランド価値をつくることにつながる当たり前のことで。それを地道にやることがD2C=ブランディングである、という話を通して初めて理解が深まって、ではやりましょう、と。なので今は、「D2C」自体は、本質的かつ継続的なブランドをつくる方法を話し合うためのきっかけの言葉でしかないのかなという感じで見ています。

古谷:そういう意味では「D2C」というワードをプロフィールに入れることで仕事が来やすくなるという説もきっとありますよね。良くも悪くも、象徴的な記号になってると言えるかも。

小林:たしかに、ブランドのつくり方を考え直すきっかけになった言葉ではありますよね。

(……この続きは4月1日発売の月刊『ブレーン』5月号に掲載しています)。

古谷知華さんがプロデュースする「ともコーラ」。

小林百絵さんがYi-tingさんと共に手がける漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY」。

木本梨絵さんはホテルのD2Cサービス「NOT A HOTEL」のブランディングに携わる。

本記事のこの後のTOPIC
・「ともコーラ」は“近所のおばさん”的存在?
・「DAYLILY」が目指す、過度ではない”つながり感”
・木本さんが語る、骨太なブランドのつくり方
・D2Cブランドを「続ける覚悟」はあるか。 など

『ブレーン』2021年5月号

【特集1】

ユーザーの心を動かすD2Cブランドのデザイン戦略
・スナックミー「snaq.me」
・ミツカンホールディングス「ZENB」
・ロート製薬「SKIO」
・椎茸祭
・PARK「LOGIC」
・MOON-X
・仕掛人が考える「D2C」の現在地
木本梨絵(HARKEN)×古谷知華(「ともコーラ」 プロデューサー)×小林百絵(DAYLILY)
・海外D2Cブランドから見える エージェンシーとクリエイターの役割 文:廣田周作(Henge CEO)

【特集2】
パッケージデザインとサステナビリティ
・デンマークで学んだパッケージデザインに求められる価値 文:渡辺真佐子(資生堂)
・消費者意識の変化を捉えるパッケージデザイン 6つのポイント 文:三原美奈子(パッケージデザイナー)

【青山デザイン会議】
複業から生まれるクリエイティブ
・小山秀一郎
・水野綾子
・山崎聡一郎

 

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