社会問題化する“産後うつ” “ワンオペ育児”
厚生労働省研究班によると、2015年〜2016年の2年間で、産後1年以内に自殺した妊産婦は全国で102人にのぼった。病気などを含めた妊産婦死亡数の約3割を占め、この期間の死因では、がんや心疾患などを上回り、最多である。
自殺者の約6割は“産後うつ”を発症していた。全国規模のこうした調査は2018年に初めて行われたことからも、産後うつの実態は近年ようやく明るみになったことが分かる。経産婦の約10人に1人が産後うつになるとされ、コロナ禍によりそのリスクは深刻化。早急な対策が求められている。
一方、「2017年度 ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた“ワンオペ育児”。従業員一人で店を回すブラックな労働環境が、母親が一人で家事・育児を休みなく行う状況と似ていることから、SNSを中心に広まった言葉である。6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児に費やす時間は、妻が1日約7時間30分に対し、夫は約1時間20分という総務省の社会生活基本調査(平成28年)からも、母親の負担が大きいことが推測される。
母親達はもがいている。塚原さんは言葉を選びながら、静かに、訪問する母親達の姿を語り始めた。「とにかく頑張り屋さんで、弱音を吐かない方ばかり。“母親たるものこうあるべきだ”という皆が一斉に目指すような母親像は薄れ、家族の在り方は多様化している。それゆえ、答えは千差万別で、どこを目指して頑張ればいいのか、人生設計にもがき苦しんでいるように見える」。
一般社団法人 中央調査社の「パートナーシップ意識調査(全国20歳以上の男女2000名対象)」では、「女性が家事・育児の大部分を担っているのはおかしい」と考える人でも、「育児は母親の天職である」と回答した人が約6割いた。「共働きでも家事は女性が中心になってやる方が良い」「男性の育児休業には抵抗がある」と回答した人は半数近くにのぼる。
多くの人が「男だから、女だから、といった考えはやめる」という建前には同意しているものの、同時に「家事・育児=女性の役割」「仕事=男性の役割」という性別分業意識が根強く残っていることが伺える。夫婦共働きが当たり前になっている一方で、「性別役割分業意識」は男女共にさほど大きく変わっていないというゆがみが、母親達を苦しめる一因になっているのかもしれない。