※月刊『宣伝会議』では、連載企画「私の広告観」を掲載しています。5月号(4月1日発売)では茶人、千宗屋氏にインタビューを実施。ここでは、本誌に掲載した記事を一部公開します。
千宗屋(せん・そうおく)1975年、京都生まれ。武者小路千家家元後嗣。斎号は隨縁斎。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学大学院前期博士課程修了(中世日本絵画史)。2003年武者小路千家15代次期家元として「宗屋」を襲名。現在母校で特任准教授も務める。2008年には文化庁文化交流使としてニューヨークに1年間滞在。著書に『茶ー利休と今をつなぐ』『もしも利休があなたを招いたら』『茶のある暮らし 千宗屋のインスタ歳時記』。
信長も秀吉も茶の湯を学んだ“型”を通して人間性を見極める
茶道三千家のひとつ、武者小路千家の第15代家元後嗣である千宗屋氏は茶事や茶会、門弟への稽古、講演や執筆活動などを通して、茶道文化を発信している。
「喫茶の習慣は平安時代にはじまり鎌倉時以降広く普及していきました。その中で茶の湯、茶道として大きく発展したのは室町~安土桃山時代。さらに明治~大正時代のバブル期には経済人がこぞって茶を嗜みました。私は、茶の湯はある時代の広告的な役割を果たす存在であると考えています」と千氏は話す。
現在茶会が設けられるシーンのひとつに献茶式がある。献茶式とは、神社仏閣での祭事の折、神仏に献上するため流派の家元自らその前でお点前を行う儀式のこと。
“献茶式”という言葉自体が記録されているのは明治時代以降になるが、神社仏閣での祭事・儀式としてお茶が振る舞われるという風習は、それ以前の千利休の時代にも存在していたという。
「お祭りなどの催しには、人を多く集めたい。有名な神社仏閣は知名度だけで人を集めることができますが、地方のあまり知られていない神社や寺が人を集めるのはなかなか難しいものです。
そのような時に活用されたのが、茶道でした。人々に興味を持ってもらうきっかけとなり、“神社仏閣”と“人”とを媒介する存在。そう考えると茶道とは、メディアであり、広告であるともとらえられるのです。そのルーツは戦国時代に茶の湯を媒介に人と人を繋げて関係性をプロデュースした千利休にまで遡れると思います」。
また、茶道は他者を理解するための重要なコミュニケーションツールとも考えられると千氏は言う。
「茶道にはいわゆる“作法”という型があります。この一定の型があることで、その型をいかに教養的に熟知しているか、限られた型の中でいかに振る舞うかによって、人間性を感じ取ることができます。
また、茶室は狭く、もてなす側ともてなされる側の距離が近いため、そういった意味でも、その人の外見だけではなく、心のうちまでも見えてきたり、行動と心が伴っていないなどがわかったりという瞬間があるのです。なので、織田信長や豊臣秀吉は茶会を頻繁に催し、家臣や交渉相手を招いて人心掌握や交渉にも活用していました」。
当時、豊臣秀吉は天下統一に向けて動いていたが、都が京にある状況下で、京都にいる旧勢力側の公家(貴族・上級官人)、文化人に認められない限り、本当の意味で天下を取ることはできない時代であった。そのような公家や文化人に認められるためには、武力だけでは限界がある。
そこで秀吉は相談役のような立場であった千利休ら茶の湯者の協力を得てお茶会を催し、公家などを招待。文化的なアプローチによりお互いの人間性を見極める方法として活用したという話もある。
「武士の時代の日本では、宴会などを開いた際、料理を出したり片付けたりといったもてなしは、その家の主が自ら行うのはNGとされており、給仕担当の人が行っていました。しかし、茶道は主が直接客人をもてなすもの。織田信長が手ずから客に膳を運び振る舞ったことで、相手の心をつかんだというエピソードも残っています。
信長や秀吉といった当時の武将たちはとても忙しく、教養を身に付けるために書物をじっくり読んで学ぶ時間はありませんでした。その点でも、ある程度型が存在する茶道は、比較的インスタントに教養を身に付けることができるため、時間がない中、文化人と交渉するための手段としても重宝されたのだろうと思います」と、コミュニケーション手段としても茶道は有効であると語った。
—本記事の続きは月刊『宣伝会議』5月号(4月1日発売)に掲載しています。
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