待望のワクチンのはずが…なぜ接種を「先延ばし」してしまうのか

「〇〇してください」「〇〇禁止」。そう呼び掛けても、人はなかなか行動を変えてくれません。それはなぜか。滋賀県立大学の山田歩准教授が、「行動科学」のインサイトを使い、解説します。

*本記事は4月1日発売の『広報会議』5月号の転載記事です。

5日後の12日、高齢者へのコロナワクチン優先接種が始まります。予約殺到の報道がされていますが、国内世論調査ではワクチン接種について「希望しない」や「わからない」と回答する人がかなりの割合で確認されます(※)。先行して接種が進む海外ではワクチン接種を拒む人が少なくなく、接種体制が構築されても接種が進まない問題が起こっています。国内でも将来的に接種対象者の「ワクチン忌避」やワクチン接種を促す「コミュニケーション」に注目が集まるかもしれません。

※ 例えば、リーディングテック調べ「コロナワクチンに関する意識調査」(調査対象:18歳以上の男女、有効回答:1200人)によれば、コロナワクチン接種「希望しない」は37%、年齢が若いほどワクチン接種に消極的な傾向が見られた。

前向きなのに接種しない人

ワクチン接種のコミュニケーションを設計する上で重要なのは、個人のワクチン接種に対する「思考・態度」と「行動」を分けて考えることです。ワクチン接種を受けない人には、「思考・態度が否定的だから接種しない人」だけでなく「肯定的だけど接種しない人」も相当数含まれるでしょう。必要なコミュニケーションも変わってきます。

「否定的だから接種しない人」ですが、ワクチンの安全性や有効性に疑念を抱いて接種を拒んでいるなら、それらを払しょくする科学的根拠を伝えることが効果的でしょう。それに対して、「肯定的なのに接種しない人」の場合は、ワクチン接種を受けようと思っていたけど「うっかり忘れている」だとか「ついつい先延ばししている」といった行動的な問題がかかわってきます。そうであれば行動科学的な知見を活かしたコミュニケーションを行うことが肝要になってきます。

計画を立ててもらう

インフルエンザの予防接種になりますが、「忘れっぽさ」や「先延ばし傾向」に対処した事例を紹介します。米ペンシルバニア大学のミルクマン教授らは、大手電力会社の従業員約3000人を対象に社内診療所での無料のインフルエンザ予防接種を呼び掛けるDMを送りました*。DMには予防接種を受けられる日時候補と場所を記したカードが同封されました。用意されたカードは3タイプ(図)。1日時と場所が記されただけのもの、2予防接種を受ける「日程」を自ら計画して書き込めるもの、3予防接種を受ける「日時」を自ら計画して書き込めるものです。

出所/文献*をもとに著者作成

その結果、予定を具体的に計画するタイプのカードを受け取ったグループほど接種率が高くなりました。具体的に計画を立てることで、ワクチン接種を受けようという「思考・態度」と「行動」がしっかりと結びつき、「忘れっぽさ」や「先延ばし傾向」が取り除かれたのだと考えられます。「希望者は無料で接種できます」。こう案内を出して終わらせるのではなく、「行動」につながるコミュニケーションが求められます。

*Milkman, K. L. et al.(2011)Using implementation intentions prompts to enhanceinfluenza vaccination rates. PNAS, 108(26), 10415-10420.

滋賀県立大学 人間文化学部生活デザイン学科 准教授
山田歩(やまだ・あゆみ)

専門は、実験社会心理学、行動政策学、行動経済学で、人間の選択行動の研究に従事。全日本DM大賞金賞グランプリなどを受賞。主な著作に『選択と誘導の認知科学』(新曜社)。

 

『広報会議』では、広報実務点検する、連載を掲載しています。

『広報会議』2021年5月号

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