【前回記事】「“広告の過渡期”に「こうあるべき」という軸を持つ~クリエイティブ・クリニック①~」はこちら
ちょっと前のことだ。それから佐藤雄介はあっという間にメジャーな存在になった。僕が2度ほどチャレンジして敗れたカップヌードルで颯爽と時代はこっちだよ、とやってみせた。文法なんて壊すためにある。それをあんなでかいステージでやっちゃうなんて。自分が考えもしないものはどんな角度から生まれているのか。佐藤雄介の仕事はいつも気になる。<高崎卓馬>
「テラゴヤ」で初めてCMを具体的に学んだ
高崎:前に、僕が電通社内でクリエイティブの若手社員向けに「テラゴヤ」という社内研修のようなものをしていて、(佐藤)雄介や栗田雅俊が受講生だった。あの頃って、雄介はもうCMプランナーだったっけ?
佐藤:CMプランナーでしたね。クリエーティブ局に配属された1年目からCMをつくっていました。そんな僕ですが、新人研修とかを除けば、会社に入ってからCMの表現を具体的に教わる機会は高崎さんの「テラゴヤ」が初めてでした。面白かったですね。特に「説明セリフはなくすべし」といった教えが印象に残っています。高崎さんは受講生をあまり褒めないじゃないですか。あれがとても良かったですよね。
高崎:そうだっけ?
佐藤:もっと褒められるのかなと思ったら、あまり褒めなくて。だから、たまに褒められるとうれしくて。
高崎:すぐ当事者になっちゃうんだよね・・・この目の前にある企画の点数をどうやったらあげられるだろう。意図はここにあるから、それをどうしたらいい着地にできるだろう、って考え始めちゃう。100点満点でもうなにも考えなくていいなんて企画はこの世にないから。でもこのあいだ監督にも言われたなあ、編集室で「いい!」ってあんま言わないから凹むって。それも同じで当事者としてどう点数あげるかしか考えないからなんだけど・・・
佐藤:今になって、その気持ちがよくわかります。
高崎:雄介の企画に対する考え方って僕とはOSが違っていて、既存の文法に乗ること自体を疑ってかかるタイプに見える。だから、アウトプットに仮説を感じるのかな。表現の文法に安易に乗っからないようにしてるよね?
佐藤:既存の文法のまんまだと新しいものは生まれにくい、とは思っています。なので、まず表現の手前から考えます。企画の土台づくり、といいますか。「この土台なら、どうやっても表現が新しくなるだろう」というところからスタートできると、結果的にどういうルートに行こうとも新しいものになるだろうな、と。基本的に“新しさ至上主義”なので「新しいものは良いことである」「広告的に強くなる」と思っています。
高崎:いつ頃からそういう意識になったの?
佐藤:マルコメさんの「ロックを聴かせた味噌汁」や「かわいい味噌汁」の企画をした頃からですね。その仕事は、商品自体からつくった仕事なのですが。最初から予定調和を崩していて。例えば、「味噌にロックを聴かせる」という土台があれば、おのずと表現は新しくなるだろうな、と。
高崎:そのときに手応えがあったから、そっち側でやっていこうと思ったんだ。
佐藤:世の中と、クライアントと、自分が重なりあうところで企画ができた最初の仕事になりました。27〜28歳ぐらいでしたね。若い時にその3つを一致させるのはなかなか難しくて。テラゴヤに行っているときは、そのあたりでもがいているときでしたね。その後、予定調和の壊し方は、日清食品さんとの出会いで爆発的に加速しました(笑)
高崎:「壊すために知っておく」というタイプ。逆に「壊すためには知っておかなければいけない」でもあるけど。
佐藤:そうですね。既存の文法を知らないと、新しい文法にも挑めないですからね。というかこれ、僕がクリニックを受けている気分になってきたんですけど(笑)。
「じつはこっちのアイデアのほうがいい」“気づきの場”としても役に立つ
高崎:今、何歳だっけ?
佐藤:36です。
高崎:この先を、どういう感じで見ているの?
佐藤:最近それをよく考えています。ここから長いじゃないですか。60歳を超えても現場にいたいなぁと思うわけです。では、どうしたらできるだろう?と。でも、未来って日々の延長にあるわけで…
高崎:日々、一生懸命にやるしかない。
佐藤:そうなんですよ。結局1日1日の積み重ね。だんだんと、基本的にイチローが言っているようなことになってくるんですよ。
高崎:僕たちの仕事は、出会いに大きく左右される。今の自分がこのクライアントに出会う意味とか、この順番で出会ったからできたこととか、そういう“出会いの結晶”が仕事だから、そういう意味でも未来を予測できないし、あんまり意味もない。
佐藤:全く予測できないです。
高崎:だから、今、つくっているものに対して、強くちゃんと反省をして、次はこうやってやるみたいな気持ちを持つことだよね。達成感は結構邪魔で、「もっとこういうものをつくりたい」というのが体の中にボワッとずっとあったほうが長く続けられると思う。それこそいつかクライアントが自分より若くなってきたりして、それでもその人たちに呼ばれる何かをもっていたいよね。
佐藤:最近、クライアントと自分の年齢が近づいてきていて、それはそれで感慨深いですね。
高崎:後輩や若手に教えたりする機会はある?
佐藤:僕もたまにCM講座に呼んでいただいたりして、課題を出して、添削はしています。
高崎:教えるのって意外と面白くない?
佐藤:僕は向いていると思います。高崎さんのテラゴヤの影響を受けているからスタイルは高崎さんに近いかもしれませんね。受講生にコンテを提出してもらって、その場でこれがどうやったら、より面白くなるかを、リアルタイムでアイデア出してディスカッションしていったり。高崎さんがテラゴヤで教えてくれていたときに「俺は教えるのがうまい」と自ら言っていたのを参考に、僕もそう自分で言っています(笑)。教えるのは、頭の体操になって楽しいですね。
高崎:脳の筋トレみたいに自分たちもなるもんね。
佐藤:それに企画を客観的に見て、“気付く場”としてもいいですよね。僕もテラゴヤと同じように受講生から複数案を出してもらっているのですが。「実はこっちの案のほうが良い」という体験が大事だと思っていて。自分がたいしたことないと思っているものが、実は他人から見たら良いことって結構あるんですよね。そもそも企画って、つくるより選ぶほうが難しいですから。
高崎:同じ課題について同時に他人が考えていることを横並びで見ることができることも財産だよね。そういうのは仕事だとなかなかないし。
佐藤:なかなかないですもんね。
高崎:今また広告をつくる仕事がなんだかとても楽しくなってて。きっとこういう時代だから余計に広告的な発想やスキルが必要とされていることを、肌が感じはじめているのだと思うけれど、この面白さをできるだけ生々しく後輩や若い世代に教えたいなと思うようになって。またテラゴヤを始めたり、後輩たちと映像企画のチームつくったりしています。
忙しくなると、教えたくなる(笑)。
佐藤:僕も「広告をつくる楽しさ」みたいな所は大切にしたくて。日ごろから制作体制を“つくるのを楽しめるチーム”にしています。「つくるのを楽しむ」というのは楽することではなく、むしろ「最後まで本気」と同義なので、ギリギリまで悩むのですが・・・
高崎:悩むのって楽しいもんね。
佐藤:この仕事は、とても大変なことが多いぶん、つくるところは楽しいほうがいいかなと。そもそも、ベースの企画が良くないと誰も楽しめないので、そういった意味でも関わっているみんなのモチベーションがあがる企画、「いいのつくろうぜ」って思ってもらえる基本の土台づくりを大切にしています。だから、高崎さんと同じ気持ちです。
高崎:“楽しんでつくっている”というのは映像に出るもので、そのポジティブな空気をまとったものは届きやすい。雄介の仕事をみてるとそのことの大切さに気がつく。あんまりこんな話をあらためてしないけど、今日はありがと。最後に、これからクリエイティブ・クリニックを受けようかなと思っている人に一言お願い。
佐藤:そうですね。高崎さんの講義は、アイデアの作り方の“先まで”教えてもらえるのが特徴だと思っています。アイデアって考えるだけでなくて、磨いて、表現に定着して初めて人の目に触れるものになるのですが。この“磨く”や“定着”の大切さに気づいてない人が多い気がしています。そもそも、誰も教えてくれないのもありますが(笑)。ほんともったいない。アイデアを考えるのと同じくらい、実はその先が大切。このアイデアを強い表現に落とす技術こそ、ぜひ高崎さんから盗んでもらえればと思います。それこそ、自分の企画をジャンプさせる、強固な土台になるかと。あと、僕としてはCMプランナーになりたい人がいる、というだけでうれしいですね。CMプランナーに興味がある方は、それだけで応援したくなるし、そんな方にもぴったりな講義だと思います。
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高崎卓馬氏
電通
エグゼクティブ・プロフェッショナル
1969年福岡生まれ。早稲田大学法学部卒業後、電通入社。最近の主な仕事にJR東日本「行くぜ東北」、サントリー「オールフリー」「知多・風香るハイボール」「BOSS・365 STEPS」、日本郵政「とどけ、きもち」、アイリスオーヤマ「要正直」などがある。小説「オートリバース」が民放連99社特別企画としてラジオドラマ化。
佐藤雄介氏
電通
クリエイティブディレクター/CMプランナー
2007年電通入社。主な仕事に、カップヌードル「HUNGRY DAYSアオハルかよ」、ギャツビー「カッコいいは、変わる。」、ドコモ「先生シリーズ」「高校1000日間の片想い」、ポカリスエット「ガチダンス」、STORES「お店のデジタルまるっと」など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。