※月刊『宣伝会議』では、連載企画「宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本」を掲載しています。5月号(4月1日発売)のテーマは「『共感』を醸成するコミュニケーション」。ここでは、本誌に掲載した記事を一部公開します。
博報堂/SIXクリエイティブ・ストラテジスト/UXデザイナー
藤平達之氏
神奈川県出身、1991年生まれ、2013年博報堂入社。ブランドのパーパスと生活者/社会のインサイトを組み合わせて、そのブランドらしいコアアイデアをつくり、戦略からエグゼキューションまでを一気通貫して形にする。
コロナ禍を受けて変わった生活者のブランドに対する期待
私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスは、ブランドへの期待にも変化を起こしました。この環境において生活者に「共感」してもらうためにどのようなブランドになるべきなのか。まずは、そこから話を始めていきます。
博報堂が2020年5月に実施した「ブランドへの期待に関する調査」(男女20-60代、n=800)によると、「自分たちにしかできないことに取り組んで欲しい」が85%、「新しく始まる世界にそのブランドらしく役に立って欲しい」が81%と、改めて「そのブランドらしさ」への期待が高まっていることが分かります。また「具体的なアクションに投資をして欲しい」が80%、「ふつうの人の毎日を快適にする取り組みをして欲しい」が87%と、ブランドの行動でよい暮らしをつくり出して欲しい、という生活者の願いも読み取れます。
つまり、これからのブランドは、3つの変化を目指す必要がありそうです。
①NO1⇒ONLY1(差別化からオリジナル化)、②:WHAT TO SAY⇒WHAT TO DO(メッセージからアクション)、③SOCIAL GOOD⇒OUR GOOD(社会全体にいいことから私たちにいいこと)、です。
この先は、「自分たちらしい行動で、生活者一人ひとりの幸せに責任を持ってくれるブランド」に、支持や共感が集まっていきそうです。
これからは「共感」の先にある「共鳴」「共振」を目指す
さて、「共感」という言葉を辞書で調べると、「人の意見や感情などにその通りだと感じる気持ち」と出てきます。当たり前のように使われるこの言葉ですが、定義を見ると「発信する⇒その通りだと感じる」という流れ=受発信の関係があることが分かります。個人的には、今の時代、ブランドと生活者は、対等な関係にあるべきだと考えています。
少なくとも、ブランドが「偉い立場」ではない。そう考えると、「共感」という言葉もアップデートが必要なのかもしれません。
そんなわけで最近、広告やコンテンツを通じた情報発信で私が意識しているのが、「共鳴・共振」という考え方です。もともとは物理の用語で、「物体が持つ固有の振動数と同じ揺れを外から加えることで、物体が勝手に振動し始める/鳴り始める現象」だそうです(拙い説明ですいません)。情報発信の文脈で捉えると、「ある発信がキッカケになってそのテーマの会話・やり取りが自然に拡がっていくこと」で、「受け取る」でなく「重なる・乗っかる」にイメージが近いと思います。これを、これから目指す新しい共感の形と考えるのはどうでしょうか。
最近、ソフトバンクさんの「NiziULAB」という仕事をしました。「NiziULAB」は、NiziU初となるAR(拡張現実)やVR(仮想現実)コンテンツが楽しめるプラットフォームです。
生活者に受信してもらうだけでなく、いかに乗っかってもらえるか。私たちが決めた情報発信のテーマは「NiziUとWithU(ファン)の“関係性”を応援する発信」でした。このテーマを起点に、さまざまなクリエイティブを発信した結果、Twitterを中心にファンを巻き込んだ盛り上がりが生まれ、優れた成果を達成することができたのです。
変にひねりすぎずに「透明な資産」を堂々と発信する
NiziU LABはひとつの事例ですが、それでは企業のブランドづくりにおいて、どういった内容の発信が効果的なのでしょうか。
陥りがちなのが、本質とはかけ離れた発信しようとする、いきなりハードルを上げすぎて失敗するパターンです。具体的には、まだ誰にも知られていないブランドに関するニッチなことを発信したり、はたまた右往左往した結果、内容が決まらないために発信すること自体を諦めてしまったり…。
おすすめは、この“真逆”を実践することです。つまり、業界では当たり前と思われていること。あるいは、心の底から語れる、自分のルーツや、経験がある領域に絞った発信です。
冒頭の話の通り、らしさへの回帰が重要な時代、そして情報がオーバーフローしている時代。重要なのは「普遍」の発信です。社会や生活者に変に媚びたり、競合との差別化を過度に意識したりしなくてよいのです。
さて、広告会社には数多の専門用語があり(しかも多くはカタカナです)、「業界用語」と揶揄されることもあるわけですが、広告業界と同じくらい、それぞれの業界やブランドにも「用語」や「思考」や「ルール」が存在していると思います。これは悪い意味ではなく、中にいる人にはいつの間にか見えなくなった「透明な資産」が積み上がっているということです。「文化」と言ってもいいかもしれません。
ブランドづくりにおいて企業がまず発信すべきは、この「透明な資産」です。
例えば、業界の当たり前、DNA、大切にしているキーワード、外せないこだわり、立ち上げ時の想い、得意技など。忘れつつあるくらい当たり前のことからスタートしましょう。
ちなみに、「透明な資産」が最も発信されているのは、個人的には採用サイトだと思っています。ですので、新しく企業を担当させていただく際は、採用サイトを読み漁ります。
また、例えば業界レベルで透明な資産を見つけるために、「主要ビールブランドマネージャーの座談会」のような企画も、やってみたいと思っています。広告会社で働いてよかったことは、すべてのブランドが透明な資産で溢れていると気づけたこと。
客観的な立場だからこそ、その資産を引き出せますので、お声がけお待ちしています。
こういった「当たり前」に潜む魅力=透明な資産を発信することが、ブランドの理念や思想の表明につながり、結果、生活者の共鳴・共振を生み出します。生活者やステークホルダーの声も聞きながら、まずは、自分たちの「良質な当たり前」を思い返してみてはいかがでしょうか。
—本記事の続きは月刊『宣伝会議』5月号(4月1日発売)に掲載しています。
月刊『宣伝会議』5月号(4月1日発売)
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〇ひとつの正解があるという思い込みを超えて
価値を生み出すための視点とは
大仲千華氏
〇「〇〇力ランキング」を
呪縛から味方に変える方法
博報堂 河西智彦氏、茨城県 谷越敦子氏
〇コモディティカテゴリーに、
新しい「選び方」の軸を提案する
おやつカンパニー/ライオン/サントリースピリッツ/
フェリシモ/エコストアジャパン
シリーズ特集
宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本
「共感」を醸成するコミュニケーション
〇個人の発信にも生かせる、
パーパス基軸のストーリーテリング
Astory 小西みさを氏
〇すべてのブランドに「透明な資産」は必ずある
原点や当たり前のこだわりを堂々と伝える
博報堂/SIX 藤平達之氏