社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーのPR戦略

1人に取るコミュニケーションか100人に取るコミュニケーションか

皆さんはある商品をPRするとき、どのようなことを考えて実践していらっしゃいますか?恐らく「いかに多くの人に、いかに多くの情報を届けられるか」を考えるのかなという印象があります。そして、それがPRのキーになるとお考えになる人も多いのかな、と思います。私もそれに同感です。より多くの人に商品についてのより多くの情報を知ってもらうことで、お客さまを獲得できる割合も増えると考えられるからです。

しかしPloomは、たばこ規制の中でも可能な限りのマス広告などで広く多くの人々にアプローチしていましたし、加熱式たばこ自体も「においがない」「健康懸念物質が少ない」などの機能に着目されはじめていました。PRする情報量とその情報に接触する人の数を考えると、すでにやり切ってしまっている感じが否めなかったのです。そのため、競合から高機能のものが発売されるとそっちに容易にスイッチされてしまうのではないかと危惧していました。

機能的価値の訴求だけでは足りない。加熱式たばこ市場で3位であるPloomが競合に勝つためには、「機能」だけでない「情緒」=愛着が必要になってくると考えるようになったのです。

目指したのは、紙巻たばこブランドのロイヤルティ。なぜかというと、紙巻たばこはブランドスイッチが起こりにくい商材の代表例だからです。

さまざまな銘柄・ブランドがあり、その各ブランドにロイヤルティの高いお客さまがいらっしゃいます。彼らがなぜそのブランドを使い続けるかを聞いたところ、味や吸いごたえのような機能的価値だけでなく、パッケージデザインやブランドとコラボした喫煙具などを見て感じられる「なんかよさそう」というさまざまな情緒的価値によって「愛着」が高いのだということがわかりました。

紙たばこにできるのならば、Ploomにできないはずがない。Ploomでもその世界をつくるべきで、どのようにすればつくれるのか、と私は施策設計を開始しました。

私が取り組んだことは、敢えてマスではなくニッチなターゲットを狙うこと。当時のPloomは既に、多くの人々に向けて多種多様なコミュニケーションを取っている商品でした。そのPloomへの愛着をさらに高めてもらうためにPRの性質のひとつである「多くの人に情報を届ける」というものとは矛盾するような方法を選択してみたのです。実際、私が考えた思考回路は以下のような感じです。

まず、1人に取るコミュニケーションと100人に取るコミュニケーション、どちらの方が受け手の理解や愛着の深度は深くなるのかということを考えてみました。というのも、Ploomは今まで100人にコミュニケーションを取ってきていた商品。さらに深くPloomを好きなってもらうためにはより深く、より狭く、1人の人に対してコミュニケーションをとることに突破口があるのではないかと考えたのです。

ターゲットの選定は、たばこに「情緒的価値」を感じていて、かつそのターゲット自体が情報拡散力に長けている人(インフルエンサー的存在)。そんな人たちをターゲットに設定し、私が仮説として考えたPR施策ストーリーは、①ターゲットと親和性が高いPloomを好きで使ってくれる ②好きだから他人に勧める(SNSにUPするなど)③彼らをフォローする人々に届く ④Ploomの情報が広がる、というものでした。

最初から多くの人に向かって情報を発信するのではなく、ある狭い1点に狙いを定め、商品理解の深度を深める。そして深度が高まったターゲットたちが自発的に情報を拡散してくれることを図ります。情報を充てる部分は狭くとも、そのコミュニティに属する人たちの情報拡散力を信頼しました。

次ページ 「「愛着」の形のひとつを見つけられた気がした話」へ続く

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