【前回コラム】「『GOOD LUCK!!』『逃げ恥』を生んだ大ヒットメーカーも15歳は「ぼんやり生きていた」(ゲスト:土井裕泰)【前編】」はこちら
今回の登場人物紹介
※本記事は2月14日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
映画『花束みたいな恋をした』ができるまで
中村:土井監督が以前、壮大なテーマより日常を描きたいとインタビューで話していたのを拝見しました。
映画『花束みたいな恋をした』は、ある意味その普遍性があるとも言えるし、誰にでも起こりうるような共感性もあるじゃないですか。初めて脚本をご覧になったときにから、監督のなかに「ここにグッとくる」みたいな、勘はあるんですか?
土井:今回に関しては、(脚本家の)坂元(裕二)さんが、観ている人たちに「コレ、自分の話だ」と思ってもらいたいという考えがあって。あとは、やっぱり恋愛というものを描きたいと思っていました。
恋愛の一部始終には、本当に人生の色々なものがあります。恋をしているときって、ちょっと魔法にかかっているような状態じゃないですか。それが自然に解けていくところを描いたものは、ありそうでなかったと思うんですよ。特に日本の映画だと、積み重ねて出来上がっていくところを描くもの、障害を乗り越えたりするものを描くのが多いんですけど。ただ普通に生きていて、心のなかで起きることだけで描かれるものはそうないので。そういう意味で、台本を読んだときは、「上手くやれば、日本の映画であんまり見たことのないものができるんじゃないかな」と思いました。
澤本:本当にそうですよね。観客全員が自分の話がちょっと入っていると思うんじゃないかって。脚本とか書くとき、普通の人ってなかなか書きづらいじゃないですか。実はお父さんが人殺しだとか、ものすごいお金に汚いとか……背景や設定を付けて、普通はその設定をもとに動かしていこうとするんですけど、今回の主人公たちは普通で。リアルに普段、街ですれ違っているような方々なんですよね。だから、そういう脚本を書くのがすごいと思っていて。
書いていらっしゃる坂元さんも土井さんも、50代じゃないですか。50代が20代の恋を書くと、「全然違っているぞ」って怒られるんじゃないかと、怖くて書けないし、演出も難しいはず……。なのに、観ている人みんなが共感する作品になっているのが、すごいですよね。
土井:とにかく50代の自分はあまり投影しないように、という感覚でやっていました。
澤本&中村:(笑)。
土井:今回は主人公の2人が、2015年から2020年に至る、ポップカルチャーでつながっていて。もちろん、僕もかつてはそういうものがずっと好きな若者でもありましたから乗っかることはできますけど、彼らと一緒に若く生きるというより、すごく近くにいるんだけど、ただ見つめているというような。そういう立場を演出として、ずっと自分に課してやっていました。
澤本:出てくる地名も「明大前」だったり。明大前は、僕にとってもピンポイントで。大学のときに明大前に下宿している友達のところに行っては、夜に終電なくなって、ソイツの家で寝たりしていて。「終電がなくなっちゃうぞ」みたいな町になっている。だから、明大前で終電となると、僕も、「あっ、オレの話だ」ってなるんですよ。同じことが、観客みんなに起こっていることがすごくて。明大前はどうして選んだんですか?
土井:それも最初から、坂元さんのプロットに「明大前の終電に間に合わなくて出会う」というのがありました。坂元さん自身、フジテレビでシナリオを書いていた若い頃に調布に住んでいたという話は、最近聞いたんですけど。やっぱり、あの京王線の空気ですよね。特に明大前は井の頭線と京王線が交差していて、渋谷にも新宿にも行ける場所じゃないですか。
澤本:はいはい。
土井:るつぼというか。
澤本:ねえ。
土井:下北沢からちょっと距離を置いているんだけども、とても身近に感じている場所ですよね。