アメリカの小売から「バウンドレスな小売の未来」を考える
ここからは金さんのアメリカの小売の現地レポートにおける注目ポイントを、オランダ在住の筆者(堤)が掘り下げてみたいと思います。
アメリカの事例で私が特に注目したいのは「カーブサイド・ピックアップ」です。これは車社会が強く根付いたアメリカらしいテクノロジーの進化だと言えます。そもそもオンラインで購入し店舗でピックアップできることはクリック・アンド・コレクト方式(またはBOPUS:Buy Online, Pick Up in Store)と呼ばれています。
ちなみに、なぜこの方式が現在急激に進化しているのでしょうか。注目したいのは、一般的にオンラインで注文してから消費者に届くまでの期間です。2016年から2019年の3年間では、アマゾンで4.2日から2.3日へ。その他小売業者が7.8日が5.3日へ縮まったとはいえ、「買いたい」と思ってから「手に入る」までの時間にはいまだタイムラグがあるのです。
そこでカービサイドピックアップのメリットが際立ってきます。それは消費者がサイト上で購入した商品を店舗で受け取れるため、自宅配送よりも迅速に受け取ることができるということ。さらには配送料がかからないこと。こうしたECサイトであるオンラインと店舗であるオフラインを連動させるOMOの取り組みは、コロナが収束したとしても今後ますます注目されていく領域です。
実は今回のカービサイドピックアップに代表される「クリック&コレクト」以外にも「OMO時代にオンラインとオフラインを融合させた新しいサービスの類型」には他にもいくつかの方式が存在します。
例えば「クリック&コミュート」はオンラインで購入し、実際の製品は生活の通り道で受け取れるサービス。通勤途中の駅のロッカーでさっとピックアップできたら便利ですよね。
また「クリック&サブスクライブ」は、オンラインから商品やサービスを定期購入するサービス。これはルーティンのようによく使う消耗品の買い物は、雑誌の定期購読のように自動化したいという欲求に答えたもの。
「クリック&トライ」はオンラインで注文し、店舗または自宅で試用するサービス。服や靴、メガネなど試着することが重要な商品はこのような方法を取り入れている場合が多いです。
「クリック&リザーブ」は特定の店舗内の在庫をリアルタイムで確認しながらオンライン予約する方法。「せっかくお店に行ったのに、在庫切れだった」というような状態を回避するサービスです。
こうした状況をフィリップ・コトラーは『リテール4.0』という本の中で「バウンドレスであれ」という言葉で表現しています。それはつまり「リテーリングは壁で区切られ一ヶ所に収まっているリアル店舗であるという意識を決定的に超越せよ」ということを意味します。
いかがだったでしょうか。今回はアメリカの小売の現場を覗くと「バウンドレスな新しいリテールの可能性」を知ることができました。また次回「世界の小売から」をお楽しみに。