「ブランドの本質」って本当に大事? セレブリティのゴシップとブランドの共通点

ブランドもセレブリティも差別性より独自性

差別性(differentiation)というのは、実はすでにトップブランドが築いた土俵の上で戦うということです。何かより比較して優れているというのは、同じ基準で比較したときのみ言えることだからです。「コカ・コーラよりおいしい飲み物」は、コカ・コーラを超えることはないわけです。

この飲料という分野で、新しい土俵を携えて切り込んだのは「レッドブル」ですが、彼らが提示した価値はたとえ同じコンビニの棚に並んでも、ただの飲み物に特化しておらず、「翼をさずける」という言い方で、エナジードリンクという機能的特長をもとに印象付けたことです。(余談ですが、飲料としてのエナジードリンクというカテゴリー内でレッドブルに対して素直に飲料のマーケティングしたのは同じカテゴリーの「モンスターエナジー」です)。

しかしながら、レッドブルは成功するにあたってコカ・コーラと明らかに共通点があります。それは、青と銀色のコントラストに雄牛のマークのような、覚えやすく見つけやすい独自性(distinctiveness)を持っており、これを自らのメディアチャネル、コンテンツ、協賛イベント、販促でどこから見ても目立つように、繰り返し印象付けていることです。コカ・コーラも初期のころからユニークなロゴ、赤い色、といった独自性を大量に繰り返し露出するように広告や販促物を出していました。実際、初期のコカ・コーラの機能的価値のコアは、「医薬品」でした。また有名なコンツァーボトルも、他の類似品と見分けがつくようにコカ(Coca)の葉からイメージしたデザインとして、間違ってココア(Cocoa)の豆の挿絵から着想され作られた「独自性」です。独自性とは、差別性と違って、何かより優れているとか、実質的な違いを持たない、純粋に他者と明確に見分けがつく特長のことです。ブランドにとっては名前そのものが象徴的な独自性で、言葉に意味がなくても、見分けがつくものとして捉えられるからです。

ベッカム夫妻の例でいえば、ワールドカップ中のサロン着用も含め、行動やジェスチャーは繰り返しメディアに取り上げられ、好意的なものも批判的なものも含めて、それによって彼らの独自性(メディアを通して伝えられる彼らのファッションの数々)が豊かになっていたことは事実です。

また、フェルドウィック氏は意図しなかったような行動に対する解釈が広がることに対するオーディエンスの実際の反応が大事だとしています。

その意味で成功する芸能人もブランドも、単に意図した本質的な価値やストーリーを持つだけで自動的にそれが広がるのではなく、それをオーディエンスに広げる意図的な努力と、意図しない解釈に対応して、自らの独自性を発展させる形で、それをまた広げる努力の積み重ねをしてきたからだといえます。ブランド価値を発展させるとは、単に本質的な価値を発見するだけでは不十分で、現実にそれに対応させ人々の記憶に残る独自性が常に露出されるような機会を繰り返し作り上げることが大事だということです。

この考えは、このコロナ禍においてもまったく同じだといえます。日々の予想しない出来事に対して、ブランドはそれに対応しながら、独自性を発展させ人々の目の前に見えるようにすることが求められているのです。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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