自分たちにだけ都合のいい提案でコンペに敗北した話

広告会社にだけ都合のいい差別化は要らない

別の競合コンペの話になります。あるインフラ系のクライアントの案件で、次年度以降のキャンペーン全体を組み立てて提案するというコンペがありました。今度は、我々がチャレンジャーとして他社の扱いを奪いに行くパターンです。

そのクライアントは、ブランド刷新に伴って既に過去2年にわたり大手の代理店がキャンペーンを手掛けていました。起用しているタレントは人気が出ており、ブランド名も定着してきた印象で、傍から見ているとうまく行っているキャンペーンでした。

提案の要件としては、年間キャンペーンの骨子を組み立て、具体的な施策まで統合的に企画するというもの。その中で、起用タレントに関しては継続して使うという条件になっていました。

競合コンペに参加できることは新たな案件獲得のチャンスではありますが、今回のようなパターンでは「なぜ競合コンペが開催されるのだろう?」という疑問が生じます。

傍から見るとうまく行っているキャンペーン。起用タレントは継続使用。担当代理店は大手。どこにどんな問題があるのだろう?競合コンペを開催することで、クライアントは何を求めているのか?従来のキャンペーンに不満があるのかないのか?担当代理店に対して不満があるのかないのか?

以前にも書いた通り、クライアントへのヒアリングでコンペ開催の目的や焦点を突き止めたいと考えたのですが、どうしてもその真意を掴むことはできませんでした。

正直なところ、チャレンジャーとしては真正面から勝負を挑んでも簡単には勝てないだろうという気がしました。しかし競合コンペを開催するからには、クライアントはきっと何かを変えたいと考えているはず。

我々としても、従来のキャンペーンの流れに乗っかる提案をするだけでは、既存代理店との差別化を図ることができません。自分たちの存在感を示すために、何か違いを出さなければと考えました。

結局我々は、タレントは継続であるものの、これまでのキャンペーンで定着してきたキャッチコピーや表現トーンなどをすべて変更し、まったく新しいメッセージとまったく新しい表現トーンを提案する、という決断をしました。これまでのキャンペーンが悪かったというニュアンスではなく、これまでに捉えきれなかった新たな顧客を開拓するために、新たなメッセージを発信しましょう、と提案をしました。

結果は、敗北。勝ったのは、過去2年間を担当してきた大手代理店でした。“元サヤ”パターンです。我々の提案に対するクライアントからのフィードバックは、「定着してきたコピーなどを今後も継続して使っていきたい」という話でした。

確かに、おっしゃる通り。定着してきたキャッチコピーを変更し、新しいイメージをつくり直すには余程の理由が必要です。競合コンペで他社との差別化を図りたかった広告会社が、自分たちに都合のいいように「違い」を出そうとするだけの提案は、クライアントにとってはあまり意味のないものだったでしょう。

では「なぜ、変えたくないのに競合コンペをしたの?」と聞きたくなります。戦前の予想通り、「やっぱり勝てなかった」というのは簡単です。しかし、どうすれば勝てたのか?答えを出すのは至難の業です。

次ページ 「弱みを見つけないと奪えない」へ続く

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生駒達也( コピーライター/プランナー)
生駒達也( コピーライター/プランナー)

広告代理店にてコピーライターを経てクリエイティブディレクターに。これまでメーカー、インフラ、通販、自治体など様々なクライアントを担当。日経広告賞、ACC賞、毎日広告デザイン賞、TCC新人賞、ニューヨークフェスティバルなど広告賞各種受賞。近年は、従来からの広告クリエイティブにとどまらず、企業のコミュニケーション活動全般に携わる。今春フリーランスとなり、“あなたを応援する仲間でありたい”をコンセプトに「オーエンカンパニー」を立ち上げ。

生駒達也( コピーライター/プランナー)

広告代理店にてコピーライターを経てクリエイティブディレクターに。これまでメーカー、インフラ、通販、自治体など様々なクライアントを担当。日経広告賞、ACC賞、毎日広告デザイン賞、TCC新人賞、ニューヨークフェスティバルなど広告賞各種受賞。近年は、従来からの広告クリエイティブにとどまらず、企業のコミュニケーション活動全般に携わる。今春フリーランスとなり、“あなたを応援する仲間でありたい”をコンセプトに「オーエンカンパニー」を立ち上げ。

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