弱みを見つけないと奪えない
しばらくして、次年度の新しいキャンペーンが始まりました。元々起用していたタレントに加えて、もうひとり新しいタレントが加わっていたのです。競合コンペの開催によって、確かにクライアントは何かを変えたいと考えていたのでしょう。
これは私の勝手な推測になりますが、元々起用していたタレントはブランドの顔になりつつあったものの、ターゲット層への訴求力が限定的だったのではないかと考えています。そこで、キャラの異なる新しいタレントを追加して、これまでに掴み切れていなかった新たな顧客層を獲りにいったのではないかと思うのです。
次年度のキャンペーンでも起用タレントの継続使用が既定路線ではあるものの、顧客層の広がりに限界が感じられていた。それがクライアントの課題であり、このキャンペーンの「弱み」だったのでしょう。だから、何かを変える必要があると感じていた。その「弱み」を最も理解していたのは、過去2年間を担当していた代理店のはずです。彼らはそれを補う新たなタレント起用を提案したのでしょう。
クライアントはきっと何かを変えたいはず、という漠然とした考えだけで提案した我々は勝つことができませんでした。相手の「弱み(つまり課題)」をきっちりと見つけなければ、提案が実ることはないのです。
競合の場で広告会社は自分たちに分があるように、自分たちの都合に合わせた提案をすることがあります。一方的な「勝つための戦略」を実践すると、そうなりがちです。しかし我々の本来の役割はクライアントの課題解決。自分たちにだけ都合のいいゲームなんてないと思っておくべきでしょう。