去り際こそうつくしく
去り際こそ真価が問われると言われます。これは人間社会だけではなく、サービスにも言えるでしょう。趣味嗜好が変わったりライフステージの変化によってサービスを退会するタイミングがやってきます。この瞬間こそ、運営企業の姿勢が問われるところでもあります。
携帯電話の会社を変える時に、なかなか解約できないというケースをよく聞きます。電話をしてもつながらない。予約をして、実店舗に行っても簡単には解約させてくれない。これはオンラインだけでなくオフラインも含めてUXを改善しなければいけないと思いますが、オンラインのサービスでは解約希望者への解約フローをわかりにくくする「ダークUX」というものが存在します。
簡単に解約できなければ、「まあ、今はいっか」と利用を継続するユーザーもいるとは思いますが、かえって意地になって「解約してやる!」という気になったり、そのことで企業の倫理が問われ、SNSで糾弾されてしまうこともあります。サービス入会時はもちろんですが、サービスを離れる時こそその真価が発揮されるのではないでしょうか。
2020年5月のNetflixによる「利用していないユーザーへの継続確認」の発表が話題になりました。
『新規契約から1年間コンテンツを視聴していないユーザーに対し、サブスクリプションを継続したいかメールで尋ねる。何も観ていない状態が2年間続いた場合もメールが送られてくる。そこでキャンセルしたいと伝えるか、メールに返信しなければ課金が自動的に停止する。』というものです。
通常、サブスクサービスの運営企業にとって「幽霊会員」というのは売上という側面で見れば決して離れてほしくない存在です。オンラインサービスに限りません。フィットネスジムも「利用はしていないけど、なんとなく契約を継続している」パターンや、場合によっては課金していることを忘れていて、毎月自動的に口座から引き下ろしがされているケースもあります。
Netflixのリリースによって、もしかするとNetflixを「契約しているけど、利用していない」ことを思い出して退会するユーザーはいたと思います。しかし、長期的な視点で考えれば、ユーザーに対する真摯な姿勢として受け止められますし、それ自体が Netflixの魅力として映り「新規で契約する」と宣言するユーザーの様子がSNSでも見られました。
「Netflix 解約」で検索すると簡単に解約できるという記事がたくさん現れてきます。サービスの運営元としては当然退会しないでもらいたいものですが、「退会検討者」をもう一度利用するかもしれないという余地を残す「休会検討者に格上げ」させることできる。UXライティングを含めたUXの設計次第ではこのように「翻意を促す」可能性を秘めています。