勝ちたいのに、実績のない急造チームで勝負に出る
今回は、とある企業広告の競合コンペの話をしましょう。複数の競合代理店が参加する形でしたが、中でもフリーランスの著名クリエイターを擁するある代理店がこれまでに実績をあげており、有力と思われていました。クライアントからの信頼も厚そうで、どう見ても本命馬という感じです。そこで、我々も従来から担当していたチームに、新たに外部の著名クリエイターに加わってもらい、対抗することにしました。
従来のチームとは趣の異なる企画に仕上がり、プレゼン自体もいつもと違う雰囲気で行うことができました。いい提案ができたと思っていましたが、クライアントの担当者からはこんな質問がありました。「このチームでは、これまでにどんな実績がありますか?」と。恥ずかしながら、競合代理店に対抗するために著名クリエイターを招いてにわかに組んだチームでしたので、「今回はじめて組んだチームでして」と答えるしかありませんでした。
コンペの結果は敗北。原因が「はじめて組んだチーム」のせいとは言いませんが、提案した企画を見て、どこかにチームとしてのぎこちなさを感じさせるものがにじみ出ていたのかもしれません。クライアントを以前から知る従来チームの知見と外部クリエイターの新しい視点がうまく融合されて、競合他社を上回る企画にまで達していなかったということでしょう。
またもやサッカーに例えますが、Jリーグのチームでも時おり海外の超一流選手を獲得することがあります。しかし、すごい選手がひとり入るといきなりチームが強くなるかというと、なかなかそうもいきません。周囲と息が合わなかったり、以前からいる国内の選手が妙に委縮したり。その一流選手に頼り切ってしまったり、チームの戦術も崩れたりすることもあり、しばらくぎこちない試合が続くケースもあります。
もちろん時間が経てば、どんどんメンバーの連携がうまく取れるようになり、元々いた選手たちも超一流の選手から多くの学びと刺激を受けてどんどんレベルを上げたりするので、助っ人がダメだという話ではありません。
我々の仕事でも、はじめて組むチームでいきなりコンペに勝つことはありますし、外部の著名クリエイターと組むことでコンペの連敗を止める勝利を収めたこともあります。
問題は、新しいチームやメンバーで今まで以上の力を発揮してコンペに勝利することが目的なのに、チームの組み方によっては、うまく互いの力を発揮できずに終わってしまうことでしょう。
コンペに勝ちたいとは言うものの、いきなり外部の助っ人を招いて新チームで臨むことは、多少のリスクを伴うと認識しておく必要があります。ところが、連敗している時ほど、ここ一番の大事なコンペになってから、にわかに助っ人を呼んで急造チームで勝負に臨みがちです。普段から、あるいは小さな案件で、テスト的に新チームの肩慣らしをしておくほうがいいのかもしれません。