“稀代のヒットメーカー”という言い方がある。昨年亡くなった作曲家の筒美京平さんなどがその典型だろう。『また逢う日まで』(尾崎紀世彦)から『AMBITIOUS JAPAN』(TOKIO)までその大ヒットの数々は、曲名を並べるだけでこの原稿が終わってしまうほど膨大な数だ。稀代とは“きわめてマレなこと”であり、筒美京平さんは天才中の天才で、どう考えても常人には真似できない。従来ヒットとは、こうした特殊な人が生み出すものだった。
しかし、2020年代の現在、我々は誰もが、サイズは小さくても何らかのヒットに関わるようになっている。ごく「普通の人」にも話題が生み出せるし、また生み出すことを求められる。ビジネスはもちろん、時にプライベートのSNS投稿でも、いいね!の数が気にかかる。勢い余って“炎上”してしまう例も後を絶たない。現在を生きる人にとって、“話題を生み出す”ことといかに付き合って行くか?は、大変に重要で日常的な課題となっている。
著者の西山守さんは電通で長く“話題を生み出す”業務に携わった後、2020年4月には大学の准教授に転身された。本書でも豊富な事例を知的に分析し、炎上に注意を払いながら話題を生み出す方法を、丁寧に記述している。上滑りしない話題の生み出し方を知りたい人には、お勧めの一冊だと言えるだろう。
佐藤達郎
多摩美術大学教授(広告論 / マーケティング論 / メディア論)、コミュニケーション・ラボ代表。WOMJ(クチコミ・マーケティング協議会)国際委員会担当理事、前理事長。広告学会常任理事、デジタルシフト研究委員会委員長。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DY→2011年4月より現職。著書に、『「これからの広告」の教科書』、『教えて!カンヌ国際広告祭』、『自分を広告する技術』、『人前であがらない37の話し方』等がある。