ファクト・チェックは「急がば回れ」
『FACTFULNESS』がヒットして、「ファクト・フルネス」を特集する雑誌も散見されました。実は、私にも取材依頼がありました。提案されたタイトルは、「ガセを徹底排除! 正しい“ソース”選び(仮)」——取材は引き受けましたが、タイトルは変更してもらいました。なぜなら、「正しい“ソース”を選べばOK」という安易な話はあり得ないからです。確度の高い情報源によって確認することは不可欠ですが、それだけでは不十分な場合も少なくありません。むしろ、「正しい“ソース”を選べば、ファクトが得られる」というような短絡(=思い込み・バイアス)こそ、ファクト・チェックにおいては大敵です。
ファクト・チェック(裏取り)は、どうしても手間がかかるものです。実際、テレビのリサーチャーがどのようにチェックしているのか、クイズ番組を例に説明しましょう。
スタジオ収録に先立って、出題するクイズについて裏取りします。たとえば、以下の4択クイズの場合、
選択肢:Aサワラ、Bキビナゴ、Cマダラ、Dニシン
正 解:Aサワラ
文字通り「一言一句」確認します。問題文にある「春告魚」「春先」「旬」を国語辞典で引いて、それぞれの定義を確認します。選択肢に画像が使用されていれば、名称と一致しているか、図鑑などで確認します。小学生の宿題みたいな作業ですが、ひとつずつ怠らず確認することによって、先入観・思い込みによる見落としを防ぐことができます。
「春告魚」を国語辞典で引くと、「ニシンの異名」とあります。「春告魚」について調べてみると、ニシンは春になると北海道の海に大挙してくることから「春告魚」と呼ばれるようになった。そして、そのように春の到来を感じさせる魚は日本各地にいて、東海・関東地方ではメバル、関西ではサワラ、瀬戸内海ではイカナゴが「春告魚」と呼ばれている——こうして、このクイズは、問題文に対して正解となる選択肢が「ニシン」「サワラ」の2つあるという不都合が判明しました。
仮に「春告魚」は「ニシンの異名」と知っていて、すぐに不都合に気づいたとしても、リサーチャーなら資料を使って確認します。既に知っていることだからと確認を怠って、見落としや取りこぼしをすることの怖さを知っているからです。実際、見落とされたひとつの些細な誤りが、思いもよらない大きなダメージを生み出すという事態は、珍しいことではなく、起こることなのです。