月刊『宣伝会議』スピンアウト連載 「100万社のマーケティング」
インターネット広告の登場以降、一部の大企業だけでなく、あらゆる企業が広告を出稿できる「広告の民主化」が起きました。さらに、ECプラットフォームの浸透は中小規模の企業の顧客規模を大きく広げることにつながっています。
インターネットの登場によって、マス・マーケティングを実践できる大企業だけでなく、あらゆる規模の企業が、より多くの潜在顧客や顧客に向き合うことが可能となりました。
しかし市場を拡大できる可能性がありながら、多くの企業にとってはマーケティングに関する知識・ノウハウがないことが、ハードルに。その状況を一変させたのが、マーケティングソリューションの進化です。各種ソリューションには、成果を上げるためのプロセス、マーケティングメソッドが内包されており、ゼロからマーケティングを学ばなくとも、導入と運用、その実行を通じて担当者個人にもそして組織にもマーケティングの知見が体得、蓄積されていく、まさに新しい時代を迎えているのです。
連載企画「100万社のマーケティング」では、ITソリューションの導入によってマーケティング機能を社内に確立させる、新しいアプローチ方法をその実践事例を通じて紹介していきます。第1回は、一人から始まったマーケティングの取り組みが、マーケティング専門部署の立ち上げに至るまで成長を遂げたNRIセキュアテクノロジーズの事例を紹介します。
情報セキュリティに関するあらゆるソリューションを提供するNRIセキュアテクノロジーズは、コンサルティング事業本部に所属するコンサルタントが中心となり、2018年にWebサービスをローンチ。ここで従来の人的営業だけでなく、Webのマーケティング活動に取り組む必要性が生まれた。マーケティングの実務経験がなかったメンバーたちは、どうマーケティングを体得し、新事業を軌道に乗せたのか。中心メンバーである渡部惣氏に話を聞いた。
Webサービス開始で顧客が拡大マーケティングが必要に
野村総合研究所グループの情報セキュリティ専門企業であるNRIセキュアテクノロジーズでは、2000年の創業以来、安全・安心なIT社会の実現により顧客のビジネスを支え続けられるよう、企業のセキュリティ課題の解決に必要とされる施策をトータルにサポートしている。
同社が新たな試みとして2018年にローンチしたのが、Webサービス「Secure SketCH(セキュアスケッチ)」。
「Secure SketCH」はWeb上に用意されたセキュリティ対策に関する設問に対して自社の状況を回答すると、対策状況の評価や追加で必要なセキュリティ対策を可視化してくれるサービスだ。
「Secure SketCH」は、社内有志の立案から始まった。立ち上げから携わってきた渡部惣氏らコンサルタントは、より多くの顧客に提供可能な、コンサルティング以外のサービスの必要性を感じていたという。
「セキュリティ対策は、規模を問わずあらゆる企業に必要とされるもの。しかし、コンサルティングという人的なサービスだけだと、なかなか地域の中小企業までアプローチができないという課題を感じていました。そこで、当社のコンサルタントの知見をWebサービス化できないかと考えたのです」と渡部氏。
新サービスの開発に向け、社内の有志メンバー7名が集結。構想から3年ほどかけて「Secure SketCH」は完成した。
全社を巻き込むコンテンツ制作で社内にマーケティングを浸透
この「Secure SketCH」立ち上げが、渡部氏がマーケティングの重要性に気づくきっかけとなる。
「それまで私たちがリーチできていなかったお客さまにもサービスを届けることに『Secure SketCH』を立ち上げた狙いがあります。接点のなかったお客さまにサービスを認知いただくには、これまでの人的営業活動だけでは立ち行かない。マーケティングの必要性を感じました」。
そこで同社はオウンドメディアやSNS、メルマガといったコンテンツマーケティングに着目した。
「新事業でもあり、プロモーション活動に潤沢な予算をかけられるわけでもなかったため、まずは質の高いコンテンツを発信し、お客さまに注目していただく活動に注力。当社にはコンサルタントが執筆した論文など、すでに優良なコンテンツはあったので、これらを一般の方が読みやすいように整えることで活用できると考えたのです」。
しかし、渡部氏はシステムエンジニア出身でサービス立ち上げ時は、ストラテジーコンサルティング部に所属するコンサルタント。マーケティングの実務経験はなく、他の有志メンバーにもマーケティング経験者はいなかった。そこでオウンドメディアなどを運営するにあたり、渡部氏らはコンテンツマーケティングについて調査。その中で出会ったのがHubSpot(ハブスポット)だった。
「人的リソースも限られているため、コンテンツの運用などはある程度、自動化したいと考えていました。
HubSpot の『Marketing Hub』はマーケティングオートメーション機能やソーシャルメディア管理機能などがオールインワンになっているため追加投資の必要がない点、またCMSが使いやすくコンテンツの更新がしやすい点などから導入を決めました」と話す。
導入後はHubSpot Japanの導入支援担当者が伴走してサポート。担当者から提示された導入時に実施すべきリスト項目をサポート担当者と共にこなしていき、リストを全部やり切った頃には、コンテンツマーケティングが形になっていたという。
「導入後、すぐに感じたのがコンテンツの管理や更新が効率化されたことです。また、各コンテンツの反響がわかりやすく可視化されたのもポイント。当社では記事を他部署のコンサルタントに書いてもらうケースが多いため、反響をフィードバックできることは執筆者のモチベーション向上につながっています」。
「Secure SketCH」のプロモーションとして開始したコンテンツマーケティングだが、その成果が評価され、現在はNRIセキュアテクノロジーズ全社のマーケティング活動や広報活動にも活用されている。
渡部氏を取り巻く環境も大きく変わった。当初は「Secure SketCH」のマーケティングと兼任で全社のマーケティングを行っていたグループであったが、2020年には渡部氏が部長となり、“マーケティング・プロモーション部”が設立されるに至った。社内でBtoB企業においてもマーケティング活動の強化が必要であることが理解されたためだ。
「当初は周囲の部署の興味も薄かったのですが、全社を巻き込んでいくうちに、重要視してくれる人が増えました。今後は、全社の顧客管理基盤を統一化することで、クロスセルの体制を強化していきたい」と渡部氏は展望を語った。
社内有志の立案から始まったWebサービス事業。そこにおけるマーケティング活動は、最初は渡部惣氏一人の取り組みとして始まりました。しかし、そこでの成果が社内を巻き込み、渡部氏を中心にマーケティングの専門組織が発足することに。NRIセキュアテクノロジーズの挑戦、組織として取り組むマーケティング活動は「BtoB企業のマーケティング組織立ち上げ NRIセキュアはなぜ社内を巻き込めたのか?」をご覧ください。
お問い合わせ
HubSpot Japan 株式会社
TEL:03-6863-5389
URL:https://www.hubspot.jp/