プレゼンテクニックよりも消費者インサイト
— 倉富二さんはどのように語学力を身に着けたのですか。
シンガポールに来た当初はまだキャリアが浅く、英語に自信がなかったこともあって、技術的なことに捉われていました。英語のプレゼンスキルとか、いかにデータを見せるとかです。リーダーとして組織をドライブしていく上では、いかに関係者をインフルエンスするかが大事なのですが、私は日本にいる時からこの点は課題でした。シンガポールでは100%英語の環境で、相手は色々なバックグランドを持っています。
そうした中、例えばアジアのファブリックケアの社長がいて月に1回程度ミーティングがあるのですが、私はそのMTGをいつもうまく進めることが出来ませんでした。しかし2年くらい経ったある時に、話の中で私が消費者のインサイトに関することを話したら、私の話をすごくよく聞いてくれたのです。それまではどれほど正しいデータを示しても「だからどうした?」だったのですが、この時は「それは良いことを言っているね」と。
立場が上であるほどローカルのマーケットの1消費者がどういうインサイトを持っているのかは見切れないですし、新しい気づきにもなるものです。この時、「あ、これだ」って踏ん切りがつきました。ですので今は、消費者のインサイトは何で、ジレンマは何で、それを私たちがどう解決するのか?という話をすることを大切にしています。
P&Gに入社してから日本にいる時もドキュメンテーションやメール、会議でも1人でも外国人がいれば英語を使ってきたわけですが、自分の人種がマジョリティであるかどうかは心理的な影響は大きいものです。アウェイになった時に、なんとなく話が通じるということはありません。そうした不安感を埋めるために、データや英語の言い回しを気にしていたわけですが、回り回って、消費者がこういうニーズを抱えている、という点であれば、みんな聞いてくれることに気づいたのでした。
ちなみに私はP&Gに入社する前から英語を勉強していました。油絵を描くために英語を勉強していたのです。将来は画家になるつもりでしたので、日本だと絵が売れないので美大を卒業したら別の国に行かないと食べていけないと思っていました。ですので、大学時代に英語の勉強をしていたのです。やっていたのは英単語帳。ひたすら単語を覚えていました。映画を見たり、アニメを見たりすることはありましたが、今となって一番良かったのはひたすら単語を覚えたことです。1日、1時間とか時間を決めてやっていました。絵を描いて疲れたら英単語を覚える。それに疲れたらまた絵を描くということをやっていました。