『23時の佐賀飯アニメ』
佐賀県は2月15~24日の10日間連続で、『23時の佐賀飯アニメ』と題した短尺動画をTwitterに投稿した。これは、竹崎カニや佐賀ラーメン、佐賀牛®など、1日1食材ずつ10種の佐賀県のグルメをアニメで紹介するものだ。
アニメならではの表現に加え、声優の宮野真守さんが「うめぇ」など合いの手を入れることで、さらなるシズル感を演出。県産品のECサイトなどからの購入を促し、コロナ下で苦境に立たされている地元の観光・飲食業界を応援したい、との考えのもと企画された。Twitterでのインプレッション合計は2159万回以上に達している(4月6日時点)。
アニメならではの描写を
訴求手段になぜアニメを使ったのか、その理由を、同県政策部広報広聴課の永尾早紀氏はこう説明する。
「例えば、ジブリ作品が地上波で放送された際には、作品内に登場した料理が『美味しそう!』とSNSでトレンドに上がってきたりしますよね。さらに、それに触発された人が実際にその料理をつくるなどの反響があります。そうした現象を捉えました」。「さらに、実写では難しい表現もアニメならできる、という点も鑑みました」。例えば一人称視点で「いちごさん」を一口かじるシーンがある。断面がアップの状態で果汁がはじける、という演出がなされているが、これはアニメだからこそ可能なもの。「アニメで描くことで、自分が食べているような感覚と、果物であれば瑞々しさ、ラーメンであれば湯気が立つ感じをアニメで際立たせることができました」。
動画は投稿後、すぐに反響が。Twitter上には「佐賀飯、ポチりました!(ECサイトで商品を購入した、の意)」などのコメントが並んだ。
さらに、予想外だったのが、県民が動画では取り上げられなかった自身のお気に入りの店を、本投稿にぶら下げる形で紹介ツイートしたことだ。「『他にもこういう店があるよ』など、県民の皆さんが一緒に盛り上がってくださいました」。さらに、取材した店をはじめ地元企業もリツイートなど拡散に協力。「地元の食自慢を軸としたPR施策などは、自治体だけが盛り上がってもなかなか大きな波及効果は得られませんが、今回は県民や地元企業が一緒に盛り上げてくださいました。決して狙ったわけではないですが、共感が得られた結果としてそういうムーブメントを生み出せたと思います」。
2013年から続くプロジェクト
本企画は、2013年から続く県の情報発信プロジェクト「サガプライズ!」の一環だ。広報担当の一部を切り出して東京に事務所を立ち上げて、首都圏を中心に活動している。県内の素材や資源を企業やブランドなどとのコラボによって磨き上げることで、コラボ企業や作品のファン達にも県との接点を持ってもらおうと2013年に始めた。
宝島社とのコラボを皮切りに、ビームス、森永製菓、2014年にはスクウェア・エニックスのゲーム作品『ロマンシング サ・ガ』とのコラボも実現。「そこでの大きな反響が以降の『おそ松さん』や『ストリートファイターⅡ』などのゲーム・アニメ作品とのコラボにつながっていきました」。そして今年、『23時の佐賀飯アニメ』は30回目の取り組みとして成功裏に終わった。
佐賀県は同県と所縁のない人たちにいかに関心を持ってもらえるかに力を入れてきた。それゆえ、例えばアンテナショップも意図的に開設していない。「なぜなら、アンテナショップはそもそもその自治体に興味がある人にしか来てもらえません。その前段階として、知ってもらうところに注力したかったのです」。
もちろん、「関心」というタッチポイントが得られたら、その後のフォローも欠かさない。今回の『23時の佐賀飯アニメ』で言えば、関心をもった人の受け皿となるサイトを用意し、アニメの食材解説や実際に購入できる先を案内している。
永尾氏は、『23時の佐賀飯アニメ』をこう振り返る。「本企画は、過去のサガプライズ! の取り組み、諸先輩方の尽力あってこその企画だったと思います。というのも、ユーザーの方々は良い意味で『また佐賀県が何かやっているよ』と反応してくださいます。突然、佐賀県がアニメで食を取り上げる、となってもここまでの反響には至らなかったのでは、と思います」。
長年の継続した取り組みが、唯一無二のブランドイメージを確立させる-。その好例といえそうだ。
『23時の佐賀飯アニメ』公式Twitterアカウント:@saga_meshiani
メディア設計:Twitter、YouTube、公式サイト、プレスリリースなど
ターゲット:グルメに興味のある全国の人々、特にアニメファンの人々
目的:佐賀県の様々な食の魅力を伝えることで、コロナ下で影響を受けている同県に関係する生産者・飲食店などの応援につなげる
体制:佐賀県政策部広報広聴課、電通、D2C dot、xpd
期間:2021年2月15~24日
2013年から続く「サガプライズ!」の施策(一例)
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