「有効フリークエンシー」はいまだに有効なのか?
しかしジョーンズ氏のこの批判にも関わらず、私もその後の「有効フリークエンシー」のほうがメディアプランニングの常識として記憶に残っています。実際、21世紀になってデジタルメディアも加わった今、この有効フリークエンシーの議論は、どのように残っているのでしょうか。
ADKがまとめているメディアプランニングのガイド『メディアプランニングナビゲーション』(2014年 宣伝会議社刊)によると、この有効フリークエンシー(3ヒットセオリー)とリーセンシーはともに紹介された後、下記のように書かれています。
3ヒットセオリーとリーセンシー、どちらかが正解なわけではないので、商品カテゴリーやブランドの特性にあわせて考えたい。また、POEメディアにあわせて考えてみると、たとえばインターネットのディスプレイ広告であれば、前述したように頻度のコントロールが可能なことから、より効果の高い頻度を見つけ出すことができるようになるだろう。(強調筆者)
面白いことに、いまだに有効フリークエンシーに関しての常識は根付いており、デジタルメディアによってそれがコントロールできることになったからこそ、その数には疑問が残っても、ある回数以上でなければ効果的ではない、という閾値を越えるべきという考えは継続しているということです。
広告に「閾値」が必要な理由
広告のメディア投下は、ある閾値を越える必要があるという考えは、あるレベル以下で広告を出しても効果がないということですが、これはより広い視野で考えると有効フリークエンシーだけでなく、総量的なものも意味します。そして接触回数ではなく、量については、ジョーンズ氏は別の観点から支持しています。
しかしながら、それまでの広告メディアの量的なアプローチとは、一時期に広告を「集中投下」をし、そのあとは広告を休止するというパターン(いわゆるフライトとハイエイタス)を繰り返すという広告メディア戦略でした。また、同じ期間内におけるシェア・オブ・ボイス(声のシェアShare of Voice)と呼ばれる、同カテゴリー内の競合ブランドと比較してどのくらいのメディア投下をしているかという割合が、市場の実際のマーケットシェアの割合を上回る必要があるという考えを生み出しています。
ジョーンズ氏は、前者の短い期間に集中投下をして、広告を実施しない期間をおく戦略については、否定しています。彼はそれに反するメディアプランニングである休止期間を持たずに一定の量投下し続けるアプローチが、業界的にはネガティブな意味合いで「点滴戦略」と呼ばれていることを意識しつつ、それが有効であったことをクライアントの実証的な経験から語っています。
この「点滴戦略」に関しての主張は、デジタル時代においてもAlways On(常時発信)型と呼ばれ、特に英国の広告業界団体であるIPA(The Institute of Practitioners in Advertising)が主張するメディアプランニングではむしろ支持されているものです。キャンペーンは短期決戦ではなく、長期(少なくとも1カ月から半年間)継続することが推奨されているからです。
一方、後者の量的なシェア・オブ・ボイスのような観点は、ジョーンズ氏が「広告の密度(density of advertising)」と呼ぶ独自の指標があります。これは市場シェアの割合をSOVで割ったもので、たとえば5%の市場シェアで10%のSOVの場合は、広告密度は2.0になります。この密度が高いほど効果が高いことを前掲書でもデータをもとに氏は説明しています。
英国のIPAではESOV(Excess Share of Voice、つまり市場シェアよりどれだけ広告シェアが多いか)を使用し、さきほどの例でいえばESOVは5%になります。これは高いほうが効果的であることは同じなのですが、IPAは過去のメディアとブランドのデータを統計的に分析して、ESOVが10%になれば、次年度の市場シェアが0.5%上昇するというルールを発見しています。