メディアプランニングの神話がクリエイティブの短期主義を加速させる
このようなジョーンズ氏およびIPAの主張や発見にも関わらず、一般的に広告業界の常識では、広告メディア投資の閾値という観点は短期集中、休止をともなう投下サイクル、そして有効フリークエンシーの確保という形で生き残っています。デジタルメディアによって広告接触の追跡や頻度のコントロールが可能になったことで、長期的な効果より短期の成果を重視するようになったのも皮肉なことです。
これまでこのコラムでは、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバルにおける「広告クリエイティビティの危機」についてご紹介してきましたが、最も新しくて進化しているはずのメディアプランニングにおいては、60年代から変わらない神話によってクリエイティブの効果をさらに短いものにする方向に動いていることは否めない事実です。
ジョーンズ氏は確かに広告の効果は、1週間という想像以上に短い期間に発揮するもので、その効果を「短期的に効果をもたらす力」(Short-Term Advertising Strength)と呼んで分析しました。併せて、このSTASが平均以上の広告は、1週間を超えて長期的な効果を保つためにはメディアの継続投資が必要だと説いています。
したがってむしろ「効く広告」とは長期に継続的にメディア投資することで、長期的効果を発揮しやすくなるということです。ジョーンズ氏は、その意味で短期に集中的に過度に出すよりは、ターゲット市場の1週間以内の広告接触を1回でも維持したAlways Onの「点滴戦略」が、投資効率が良くなると言っているわけです。
ジョーンズ氏はクリエイティブについてはSTASの差があること以外に言及していませんが、メディア接触と購買の関係はブランドによって大きく変化することを見抜いており、それをごちゃまぜにした総花的な分析では「広告が効かない」というデータになってしまうことも理解していました。同時にブランドが持つ市場シェアの大きさと広告による相乗効果が広告の効果に大きく影響することを「内在モーメンタム」という言葉で説明しています。
この「内在モーメンタム」は、ジョーンズ自身はブランドエクイティとは区別していますが、広告によって形成される「独自のブランド資産(distinctive brand assets)」を示唆しているように私には思えます。そしてこれが、優れたクリエイティブが持つ長期的な効果であり、メディアだけでなくクリエイティブが「効く広告」に必要な条件であることを意味しているのです。