「音楽人生30年、“ベテラン”ではなく、“新人”と呼ばれたいが一心で小説を書いた」(ゲスト:松尾潔)【前編】

過去にプロデュース論の本出版の話も「つんく♂さんの金魚のフンみたい」

松尾:そのとき僕は音楽エッセイ集を書いてたんです。「すいません、今これ書いてるんで、音楽のエッセイ集まとめてから、その後取り掛かっていいですか」みたいな話になって。それで、2015年から取り掛かった。それから何度も何度も途中で辞めたくなっちゃって、書き終わってないのにスピンオフを書いてみたり、勝手にエピソード・ゼロをつくっちゃったり。先ほど言った短編小説というのも、「小説の終わらせ方」を早いとこ経験したいなと思いながら書いたものです。

僕は3、4分の歌詞は何百も書いてきた。企画書もたくさん書いてきた。だけど、短距離走をどれだけやってた人でもいきなりマラソンって完走できないじゃないですか。筋肉をつくり変えるのに時間がかかったんだなと、今ならわかりますね。せっかく体質を変えて肉体改造もした今となってみれば、「じゃあ2作、3作と書かなきゃなもったいないな」って気持ちもあります。ま、こうやって綺麗なところだけを話してますけど、経済活動として考えてみると、こんなに効率悪い数年もなかったですけど。

澤本権八中村:(爆笑)。

権八:そうですよね~。しかも書き下ろしですもんね。

松尾:そうなんです。

権八:ずっと書き続けてたわけですよね。

松尾:結局6年がかりですね。今日も白石さんをそそのかした張本人で、新潮社の高橋(亜由)さんという編集者がいらっしゃってるんだけど。彼女は20年ぐらい前に、僕が『ASAYAN』(1995~2002年、テレビ東京)っていうオーディション番組で審査員をやってるのをご覧になってて。「プロデュース論の本をうちで出しませんか?」「つんく♂さんの本みたいのを出しませんか?」って声を掛けてきた方なんですよ。『LOVE論』って本が売れてましたからね。

澤本:ああ、ありましたね。

松尾:『ASAYAN』でもつんく♂さんの男版みたいな仕事やって、プロデュース論でもつんくさんの後塵を拝すると…。「なんだかなあ。金魚のフンみたいだなあ」と思ってね。その後しばらく何ヵ月間かは、月に1回ぐらい会って聞き書きで彼女にまとめてもらってたんだけど、途中で「本当申し訳ないけども辞めさせてください」って言って、ぱたっと辞めさせてもらった。

それから十数年、彼女とはずっと没交渉だったんですけど、さっきお話した白石一文さんが『快挙』を出されたときに、白石さんのTwitterに高橋さんとのツーショット写真がアップされていて。書店巡りをされてる写真だったんですけど、「高橋さんってビジネス書をつくってたけど、今は文芸の方に行ったんだ」って知って。「これはちょっといい機会かも」と思って「十何年経ちましたけども、その節は途中で不義理ぶっこいて失礼しました」っていうお詫びのメールを送ったんですよ。「このメアド生きてるかな?」ぐらいの感じで。そしたらすごい涼しげな感じで「全然気にしてません~」みたいな、「なんなら白石さんに会いません?」みたいな返事が来て。「マジすか!」って。

それで、お食事したらいきなり白石さんからそうやって口説かれたんです。この波をちょっと楽しんでて、書くところまでは盛り上がったんですけど、書き出すと地道な作業でね。白石さんに最初に「あなたは書く人だ!」って言われて盛り上がった気持ちを維持するのは大変でしたけどね。そのあとも白石さんと個人的に会ってお食事したり、そういう僕にとってのご褒美もあったから、なんとか書き続けられたかなって感じですかね。

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