僕は「成り行きが生業になった」人なんです。
権八:「すぐおわ」を聴いてる学生の子たちからメールでお便りが来るんですけど、若い子はやりたいことや好きなことを本当にお仕事にできるのかってみんな悩むじゃないですか。松尾さんのキャリアって、今改めて見るとちょっと面白いですよね。
松尾:そうですね。だからあんまり人にはおすすめしません(笑)。僕はよく「成り行きが生業になった」って言うんです。これは時代もあるだろうし。ただ、僕は音楽ライターを学生時代から始めてましたけど、もともと大学に入ったときはクリエイティブライティングの方で。小説とか書きたいと思ってたはずなんです。だけど、僕良くも悪くも見極めが早いんですよ。
例えば、大学の同じクラスに「うわっ、この子の書いたの面白いな」っていう人がいたときに、「負けじと頑張ろう」とはあまり思わなくて。「じゃあ俺何ができるかな。音楽のことよく知ってるし、人に会うのも好きだから音楽の人にインタビューして、それをまとめよう」「でも英語がイマイチだな、じゃあこの辺りブラッシュアップして英語力の底上げができたら効率が上がるんじゃないか」とか考える。それで、2、3年経って通訳なしで喋れるようになると「俺、全部やりますから」って仕事も増えていった。今度は「写真も撮ります」とか。そうやってライターとして仕事を増やしていったんです。NHKが当時BSの普及に力入れてる頃で、新しいタイプの番組をやりたがっていると聞いたものだから、「ムービーも撮れます」って言い切って自分で撮ったもの売り込んだりとかして。その流れで「番組のキャスターやりませんか」ってご依頼を受けて、しばらくNHK-BS2のキャスターやってたこともあるし。全部素人芸なんですけど、人様にご迷惑かけない程度やっていく分にはいいじゃないですか(笑)。
権八:迷惑かけないレベルじゃないですけどね、本当に。
松尾:だけど、きちっとどこか会社に入ったっていう経験がない。こういうことメディアで話すのは初めてなんですけど……僕は学生時代からレコード会社とかに出入りして。大学卒業するときは、自分で稼いだお金で外国車に乗って携帯電話持って学校に行くような感じになってました。時代もそうだし「会社に入らなくてもいいじゃん」と。ナメてました。「今会社に入ったら、自由にできるお金減るんじゃないか、時給が落ちるんじゃないか」ってことを考えてて。
それで、大学生の時にソニー・ミュージックの方に「うち受験しない?」「名刺持とうよ」みたいなと言われたときに、青臭い反抗心で「いや俺好きなアーティストがMCA(レコード)とかに多いんで」とか「ワーナー(ミュージック・ジャパン)さんのアーティスト好きなんで」って言ったんです。後になって「あのときソニー・ミュージックの社員になれたかもしれないのに!」って思いましたね。歴史は不可逆なのでもう戻れないけど、そういうことをやってみてもよかったかなって最近思います。というのは、会社に入ったら入ってるだけで覚えたかもしれないことを、外にいると自覚強く持っているのに覚えられてないってことはありますよ。単純に、保険制度とかね(笑)。
澤本&権八&中村:(爆笑)。
松尾:誰かにコピーを頼んで製本してもらうとかね。そういうのって会社にいると普通のことじゃないですか。
中村:だからこそ、親になったら子どもはそういう進学校なりそういう大企業にどうしても入れたくなりますよね。
松尾:そういう理由があって親ってそういうとこに子供を行かせたがるんだなってことに、ずいぶん遅れて気づきましたね。