“タコツボ化”していると言われるJ-POPの未来は。
権八:先ほどの「お箸の国のR&Bをつくる」とか「対米従属型でいいのか」という葛藤をされた時期がありました。最近だとK-POPがビルボードを制している中、比較論で「日本はどんどんタコツボ化している」「グローバルスタンダードと違うところに行っちゃってる」みたいな評論があるじゃないですか。この辺の話はどういうふうに見てらっしゃいますか?
松尾:最初に結論言うと、僕はそれでいいじゃないかと思ってます。「なんでそんなに世界中で売れたいの?」とさえ思ってます。それをやりたい人はやればいい。それこそ「英語が不得手な人が英語で歌う必要あるのか」っていう議論よりも今はもっと先の時代に来ていて、韓国の人が韓国の言葉で歌ったものがアメリカで受けるようになってる。だけど売り方に関しては、すごくアメリカのマーケットのことを考えてやってるっていう。そこまでやることがクリエイティブに対して幻滅を抱かせないのであれば、追求してもいいんじゃないのと思うけど。
つくったり生み出したりすることが楽しいということでやってるんであれば、結果としてそういうところに行って売れればいいけど、そこを狙う必要ないんじゃないかな。だって日本はそこそこ人口多いんだから、日本でやってもいいじゃないっていうのが僕の考えですね。
小説でもそう思います。例えば……川上未映子さんが英語で小説を書けるわけじゃないですよ。僕は面識ないからなんとも言えませんけども。でも彼女の小説は英語圏でも愛されてる。それは素晴らしい翻訳者との出会いもあったでしょうし、なんといっても物語としての地肩が強いんだと思うんですよね。音楽だって、ふり返ってみれば、BTSの『Dynamite』(2020年)が1位になるまでは、ビルボードを制した唯一のアジアの曲『SUKIYAKI』(1963年、坂本九)は日本語なわけですよ。あくまでもクリエイティブの側に立って言えば、僕は(海外マーケットのことは)あんまり考えていませんけど、ただそれを面白がってくださるのであれば、喜んでどうぞって感じです。
中村:もう1つ、素人目線の質問ですが、これだけヒット作を手がけられる松尾さんには、“ヒットの法則”っていうと陳腐ですが、プロデュースしていて「これは当たるかもしれない」という勝算が見える瞬間はあるんですか?
松尾:真面目にお答えすると、この仕事を始めた頃よりは精度上がってると思うんですが、それでもやっぱわからないことが多いです。だからこそ音楽の尊さっていうのを僕はまだ信じることができてるんですけど。ただ、「これはダメだな」っていうのはすごくわかるようになってきた気がします(笑)。
澤本&権八&中村:(笑)
松尾:「ダメだな」の中にもいくつか細分化することはできますよね。「俺は『うーん』と思うけど好きな人もいるんじゃない?」っていうのから、「これはdefinitely万人が嫌い!」っていうのまで。ただ、“嫌い”と言いますけど、有島武郎が「愛の反対は憎しみではない、愛さないことだ」って言うように、スルーされるのは嫌じゃないですか。「悪名は無名に勝る」じゃないけど。かといって、炎上ばっかり狙いたいっていう人はここにはいないと思いますけれどね。
だから、芯食ってるかどうかはわかんないけど、わからないからこそ、一応フックだけはいくつかつくっておこうとする。多少なりとも打率を上げる努力はしてますね。今までヒット経験と呼べるものがあるとはいえ、途中から自分が関わったっていう実感がわかんなくなるぐらいヒットするときって「なんであんなにソフトバンクの犬のCMがウケたのか」って自分でもよくわかんないとこあるでしょ? 幸せなことなんだけど。
澤本:最初はわかんなかったですね。
松尾:後でそのことを意味づけることができるにしてもね。僕だってCHEMISTRYが100万枚売れればいいと思ってたけど、絶対売れるかどうかっていうとそんな自信があってやってたわけではないですよ。「そうなればいいな」っていう感じだから。ずっとそこは繰り返していくのかなっていう気もします。小説だって、いろんな方に読んでいただきたいです。